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シャンパンで乾杯 第21話(村雨)

「春海さん、店閉めるの手伝いますよ」 「村雨さん!お疲れ様です!」  村雨が帰るとちょうど春海が店を閉めるために外に出て来たところだった。 「荷物置いてきますね」 「あ、掃除はいいので先に上がって休んでいて下さい。帰って来たばかりで疲れてるでしょ?」 「それは春海さんも同じでしょ?早く春海さんを充電したいので手伝います」 「えっ!?……あ、はぃ……」  春海は一人で何年もこの店を切り盛りしてきたのだから慣れているのはわかっているが、二人で手分けして片づけた方が早い。  店内の椅子をテーブルの上に上げて、ホウキで掃いて、モップをかけて、レジを締めて、食器を洗って――……  一人でしていたらなかなか終わらない。 *** 「村雨さんが手伝ってくれると早く終わるので助かります!」 「一人よりも二人の方がいいでしょ?」 「はい!じゃあ、晩ご飯急いで作りますね!」 「その前にこっち」 「え?」  嬉しそうにキッチンに向かいかけた春海を引き戻して抱きしめる。  春海がおずおずと手を背中に回してきて、シャツを軽く握りしめた。 「村雨さん、今日も一日お疲れ様でした」 「ん、ありがとうございます。春海さんもお疲れ様でした」 「ふふ、ありがとうございます」 「よし、充電完了!続きはまた後で」 「あ、後!?」 「え、今がいいですか?」 「そそそういう意味じゃなくてっ!あの……ご、ご飯作りますっ!!」 「お願いします」  春海が、苦笑する村雨の肩をペチンと軽く叩いてキッチンに向かった。    あ~可愛いなぁもぅ…… 「あれ?村雨さん、これ何ですか~?」  冷蔵庫の前に置いてあった紙袋を見て春海が聞いてきた。 「あぁ……それ先輩がくれたんですよ。シャンパンです」 「シャンパン?」 「だいぶ前に先輩と飲みに行った時に美味しかったからまた飲みたいって言ってたやつなんですけど……俺の誕生日祝いにってくれました」 「へぇ~。先輩って熊田(くまだ)さんですか?お洒落な方なんですね」  どうして春海さんが先輩の名前を知っているんだろう?と一瞬疑問に思ったが、そういえば村雨が寝込んでいた時に先輩が春海さんに連絡をしてくれたので、その時に話したのかと納得する。  それよりも……お洒落?先輩が? 「え、なんでですか?」 「だって、誕生日プレゼントにシャンパンとか……なんだかお洒落じゃないですか?」 「あ~……」  確かに、誕生日プレゼントにシャンパンってなんだかお洒落っていうか、キザだよな。  少なくとも、会社の後輩、しかも男の誕生日プレゼントに贈るというのは、珍しいのかもしれない。  でもたぶん…… 「あの先輩はそんなに深く考えてないんだと思いますけどね」 「そうなんですか?」  先輩は本当にたまたま手に入ったからくれたというだけなのだと思う。  まぁ、そういうことをサラッとしてしまうところは凄いと思うけど……先輩は見た目のせいでかなり損しているように思えてならない。  良い人なんだけどなぁ~…… 「はい……。あ、それでね、春海さん」 「はい?」 「誕生日プレゼント俺からおねだりしてもいいですか?」 「え、あ、はい!いいですよ!?あ、でもわたしが叶えられる範囲になりますけど……」 「じゃあ、俺の誕生日にこのシャンパン一緒に飲んでくれませんか?」 「シャンパンをですか?」 「俺がひとりで飲むのは何だか淋しいから。一口だけでも……なんなら飲むフリでもいいんで付き合って下さい」 「いや、え?……なんでそれが誕生日プレゼント?」  春海が、困惑して眉を軽く顰めながら村雨を見た。 「春海さんお酒弱いって前に言ってたから……弱いのわかってて一緒に飲んで欲しいっていうのは俺のワガママだし……でもあの、強制じゃないですからね!?無理なら、また今度先輩と一緒に飲んでもいいし――……」  春海がお酒を飲まないのは知っている。  普段から全然口にしていないし、パーティーの時も飲んでいなかった。  お酒が苦手だと知っているのに、一緒に飲んでくれと頼むのは気が引けたが、せっかくだから気分だけでも一緒に味わいたい…… 「そんなの、大量に無理やり飲ませるとかじゃないんですから、全然ワガママじゃないですよ!お酒は苦手ですけど、一応祖父たちに一通りのお酒の味は覚えさせられてるんで、一杯くらいは大丈夫ですよ」  春海が苦笑した。 ***

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