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シャンパンで乾杯 第22話(村雨)
村雨は、目の前の恋人を複雑な想いで眺めた。
「春海さん、大丈夫ですか?」
「らいじょうぶですよぉ?」
「あの……呂律 が怪しいですけど……あぁ、もうダメですってばっ!!水飲んで下さい水!!」
「やぁだ!らって、むらさめさんがいっしょにのんでっていったんでしょ~?」
「はい、すみません!!たしかに俺が言いましたけれども……っ!」
春海の手からシャンパングラスを奪い取って、水の入ったグラスを渡す。
「これシュワシュワしないですよぉ~?」
そりゃ普通の水ですから……
「シュワシュワがわかんないってことは酔ってるってことですよ~!ほら、もうベッド行って寝ましょうね!」
適当にごまかしてベッドに連れて行こうとすると、春海が村雨の腕を掴んでじっと見つめてきた。
「むらさめさん!」
「え?はい、何ですか?」
「ちゅーしてくらさい!」
「んん゛?」
「……らめ?」
春海の眉尻が下がって表情がふにゃっと崩れる。
不安気なその表情がやけに幼く見えた。
かわい……いけれどもっ!!
「ダメじゃないですよ?ダメじゃないですけど……あ~もぅ!!」
村雨は一瞬天を仰いで軽く息を吐くと春海を抱き寄せた――
***
誕生日に、先輩から貰ったシャンパンを一緒に飲んで欲しいと頼んだのは自分だ。
村雨は、一緒に飲むフリだけでもいいと本気で思っていたわけだが、春海は意外と飲んだ。
そして、酔っ払った。
飲んだと言っても、まだグラスに2杯程度しか飲んでいない。
まさかそれでここまで酔うとは……
っていうか、春海さんって絡み酒なのか~。
ちょっと意外だったけど、普段見られない姿なので新鮮だ。
春海はなかなか顔に出ないタイプらしい。
だから最初はそんなに酔っているとは思わなかった。
あれ?と思ったのは、平然とした顔で急に村雨に愚痴を言い始めたからだ。
春海は、酔ってから延々と村雨に愚痴を言い続けた。
その愚痴の内容が、村雨ともっとイチャイチャしたい、一緒に住みたい、もっと甘えたい……と、可愛すぎて悶絶するしかないようなものばかりなのに、村雨の顔が少しでも緩むと「真面目に聞いて!」と怒るので、さっきからにやけそうになる顔を必死に引き締めていたのだ。
ただ、酔ったら少しは本音が聞けるかもとは思ったけど、いざ聞いてみると、なんだか複雑な気持ちになった。
春海さんの身体を心配して手を出すのを我慢していたわけだが、どうやら春海さんは俺が手を出さないことが不満だったようだ……
春海さんのことを想っているつもりだったのに、大事にしすぎて空回りしてしまっていたらしい。
まぁ、店を休みにできるということを知らなかったから、そこら辺に行き違いがあったのはある意味仕方がないのだが。
でも、こんなに近くにいて、一緒に過ごしているのに、それでも言葉が足りていない――
あ~俺、今までの彼女たちにもこういうところが嫌われる原因だったのかなぁ~……
やだなぁ……春海さんには嫌われたくない……
ふと、そんなことを考えて切なくなり、うじうじ考えている自分の女々しさにへこんだ。
ダメだ、俺もちょっと酔ってるな……
***
春海は、キスをすると満足したらしく、そのまま気持ち良さそうに眠ってしまった。
うん、生殺し!!
いいもん……今度ちゃんと春海さんが素面 の時に、いっぱいイチャイチャするから!!
っていうか、一緒に住みたいか~……俺も一緒に住みたいけど、いや、今も半同棲状態なんだけど、でも、俺がここに本格的に移って来るのは……まだ無理なんだろうな~……
まずは、常連さんたちの信頼を得なきゃだな!!
水を飲んで春海の隣に寝転び、春海の寝顔を見つめているうちに、村雨も眠ってしまっていた――
***
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