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シャンパンで乾杯 第23話(春海)
目を覚ました春海は、隣に眠る村雨の顔をボーっと眺めた。
え~っと……なんだっけ……?なんでこんなに頭が痛いの?
酷い頭痛と吐き気に完全にノックアウトされて起き上がれない。
枕に顔を埋めて唸っていると、ふわっと頭を撫でられた。
「大丈夫ですか?吐きそう?」
「……ぅ~~……吐き……はしないけど気持ち悪いぃ~……」
「うん、見事な二日酔いですね」
村雨が声を押し殺して笑う。
少し顔を横に向けて、恨めしそうに村雨を見た。
「ぅ゛~……これが二日酔いなんですか?……村雨さんは余裕ですね……ずるぃいいい!!わたしよりもいっぱい飲んでたのにぃいい~!」
「いっぱいって言っても、春海さんが手伝ってくれたから一本全部は飲んでないですし?」
「あ゛~……もうお酒なんて二度と飲まない!!」
「それ、酒飲みが二日酔いの朝に必ず言う言葉ですよ」
春海の言葉に村雨が苦笑した。
言われてみれば、よく聞くフレーズかもしれない。
そんなことよりも、頭がガンガンして自分の声まで響く……
村雨は、それを知っているからかさっきからやけに優しく柔らかい声で話してくれている。
「頭痛いぃ~……」
「とりあえず、水持ってきますね」
そういうと、春海の頭に軽く口付けてベッドから出た。
わぁ……村雨さんは朝から爽やかだなぁ~……
部屋から出ていく村雨の背中を見つめながらそんなことを考えている自分がなんだかおかしくて一瞬ふふっと笑った後、頭痛に顔を顰めた。
祖父がお酒好きだったので、昔は店を閉めた後に祖父と常連客たちが遅くまで酒盛りをしていたものだ。
そして、翌朝二日酔いでフラフラしているみんなを説教しながら介抱するのが春海の役目だった。
まさか、自分が二日酔いになる日が来るだなんて……
自分が介抱されるのは初めてだ。
「はい、水飲んでください」
「ありがとうございます……」
村雨が背中を支えてくれたので、起き上がるのが少し楽だった。
水を飲んだ春海は、村雨の胸にもたれかかって、目を閉じた。
頭を撫でてくれる村雨の手が気持ちいい。
「村雨さん」
「何ですか?」
「すみません……朝ごはん作れないかも……」
「ふふ……でしょうね。俺は適当に食べるので大丈夫ですよ。春海さんも今は食べられないでしょうから、落ち着いたら食べて下さい」
「ごめんなさい……」
「いや、気にしないで下さい。それより、俺の方こそすみません。俺が一緒に飲んで欲しいなんて言ったせいで……」
「……んです……」
「ん?」
「わたしが一緒に飲みたかったんですよ。ただ、お酒飲むのが久しぶりだったのと……村雨さんの誕生日でちょっと浮かれてて、ペース間違えました……あ~もぅせっかくの誕生日だったのに……ほんとにごめんなさい……」
こんなはずじゃなかった……確かに春海はお酒に弱いが、20歳になった時に祖父たちにお酒の味は一通り教えられたし、自分の限界やペース配分も教えられた。
だから今までお酒の席での失敗はしたことがない。
それなのに……
「俺は最高の誕生日でしたよ?」
「え?」
「身内以外でちゃんと誕生日を祝って貰ったのは初めてですから」
ちゃんとって……わたしめちゃくちゃ酔っ払ってましたけど……!?
「待って、お酒ナシでもう一回リベンジさせてください!」
「リベンジ!?いや、本当に俺昨日ので十分ですよ!?」
「でも……」
「だって、美味しい料理と美味しいケーキを俺のために作ってくれて、俺のために慣れないお酒一緒に飲んでくれて……レアな酔っ払った春海さんも見ることができたし……」
村雨が嬉しそうに笑った。
村雨さんは、誕生日をまともに友人や恋人に祝ってもらったことがないと言っていた。
だからちゃんとお祝いしてあげたかったのに……
情けないな……何やってんだろわたし……
「あの……来年こそは、ちゃんと……お祝いします!」
「はい!来年も楽しみにしてますね!あ、その前に、今度は俺が春海さんの誕生日お祝いしますからね!」
「……はい」
「そうだ、春海さん」
「なんですか?」
「俺、今晩は鍋が食べたいです」
「……え?……あ、はい!わかりました!」
「材料、仕事の帰りに買ってきましょうか?」
「あ~……いえ、今日は店は昼から開けることにするので、午前中に買い物に行ってきます。どんなお鍋がいいですか?」
「ん~――……」
落ち込む春海を元気づけようとする村雨の気持ちが嬉しかった。
って、結局わたしが元気づけられてるし……
せめてものお詫びに今夜のお鍋は豪勢にしよう……!!
――で、その晩はカニ鍋にした。
春海は、「二日続けて誕生日祝いだ!」と喜ぶ村雨の無邪気な笑顔を見ながら、
来年こそはちゃんとお祝いします!!
と、心に誓った。
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