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Storm has arrived from England! 第27話(春海)

 その日、村雨さんは本当に早く帰ってきてくれた。  早く終われるように熊田(くまだ)先輩も協力してくれたのだとか……また今度お礼しておかなきゃ! 「彼は一体誰なんだい?律の友人かな?」  閉店後も当たり前のように店に残って掃除をしてくれている村雨を、叔父がキョトンとした顔で眺めた。 「後でちゃんと紹介します。とりあえず、店を閉めるから手伝って下さい!ほら、叔父さんも掃除して!!」 「お~っと、最近ちょっと腰が痛くてね……あ、マリア!ほら、僕の分も律の手伝いして!!あれ?マリアは?」 「マリアは今、みんなの晩御飯作ってくれてます!まったくもう!叔父さんはいつもそうやって逃げようとするんだから!」  春海の小言を無視して2階に逃げて行く叔父の背中を、苦笑しながら眺めた。  それにしても、マリアが晩御飯を作ると言い出したから任せてみたけれど……本当に大丈夫なのだろうか……  春海が一抹の不安を抱いた瞬間、2階から小さな破裂音と盛大に何かが床に落ちる音とマリアの叫び声が聞こえた。 「え!?だ、大丈夫なんですか?今の……」  音に驚いた村雨が、2階と春海を交互に見た。 「あ~……だいたい何が起きてるのか想像つきます……」 「もう後は食器洗うだけですよね?俺やっておきますから行ってあげてください」 「すみません……それじゃちょっと行ってきます……」  むしろ、2階の方が村雨の力を必要としているかもしれない……と思いつつ、重い足をひきずって2階にあがった。 *** 「マリア~……何があったの?」 「リツゥ~!!タマゴガ~!!」 「あぁ……」  そこには予想通りの光景が広がっていた。  恐らく、生卵を殻ごと突っ込まれたせいで爆発してしまった電子レンジ。  恐らく、爆発に驚いたマリアが吹っ飛ばしたボウルとその中に入っていたのであろう小麦粉の残骸。  そして、後はもう小動物がここで運動会でもしたのかと思うような……うん…… 「マリアはケガしてない?」 「ダイジョブヨ~!デモ……sorry(ごめんなさい)」  頭から小麦粉を被って床に座り込んでいるマリアが、しょんぼりと俯いた。 「ここは片づけておくから、マリアはお風呂入っておいで」 「ワタシ、スルヨ!」 「うん、気持ちだけ貰っておく。大丈夫だからお風呂入ってきて。ね?」 「マリア、律の言う通りにまずはお風呂入っておいで?せっかくの美人が台無しだよ」 「Yes dad(はい、お父さん)」  食い下がろうとしていたマリアだったが、叔父の穏やかだけど有無を言わさない言葉に渋々頷いた。  マリアがお風呂に行った後、春海は台所の片づけを始めた。  さすがに傍観するのは悪いと思ったのか、それとも、このままでは晩御飯になかなかありつけないと思ったのか、渋々ながら叔父も掃除を手伝ってくれた。 *** 「春海さん、下の片づけ終わりましたけ……ど……うわ、凄いことになってますね……」 「あ、村雨さん、お世話になりました!これでも半分くらいは掃除できたんですけど……すみません、ちょっと晩御飯遅くなりそうです……」 「これで半分ですか!?あらら……え~と、下に落ちてるのって小麦粉ですか?」 「はい、小麦粉です……だいぶ集めたんですけど……」 「ん、わかりました。じゃあ、俺小麦粉とか床の方掃除するから、春海さんは調理器具とか洗って、晩御飯の準備に取り掛かって下さい」  村雨が瞬時に状況判断をするとテキパキと指示を飛ばす。  春海は、村雨は仕事で疲れているだろうし、下の掃除をしてくれたので、ここの片づけまで手伝ってもらうつもりではなかった。  でも、当たり前のように手伝う気で腕まくりをしている村雨を見ていると、なんだか嬉しくなった。  疲れているところ申し訳ないけど……村雨さんに手伝って貰おう……村雨さんに任せれば掃除は心配ないから。  今までの付き合いで、村雨さんがこういうことが得意なのはもう知っている。 「はい!お願いします!って、待って!村雨さんその恰好だとスーツが汚れちゃいますよ!?」 「あ、そうか。ちょっと着替えてきます。え~と、俺の服って――……」 「こっちです。すみません、とりあえず全部私の部屋に――……」  叔父がいることなど完全に頭から吹っ飛んで、春海の部屋まで村雨の腕を引っ張って行った。 「スウェットの方がいいですよね、汚れちゃいますもんね」 「ですね、まぁ俺は何でもいいですけど」 「小麦粉で真っ白になっちゃいますよ!」 「たしかに……」  春海がスウェットを渡すと、村雨がクスッと笑いながら春海の顔を撫でてきた。 「粉がついてましたよ」 「あ……すみません」  さっき小麦粉を片づけていた手で顔を触ってしまったらしい。  恥ずかしい……わたしずっと顔に小麦粉つけたまま喋ってたの!?    春海が、あまりにマヌケな自分の顔を思い浮かべて落ち込んでいる間に、村雨はさっさと着替え終わっていた。 「春海さん、ちょっとだけいい?」 「え?」  村雨の声に振り向くと、ギュッと抱きしめられた。 「大丈夫?春海さん、昼から大変だったでしょ?」 「あ……はい……大変っていうか、何だかいろいろありすぎて頭が混乱してます……」 「ふふ、そうでしょうね。俺もびっくりしましたし……春海さん、ずっと眉間に皺寄ってますよ?」  村雨がふっと笑って春海の眉間を指で撫でた。 「え~やだもう……眉間の皺って残りやすいですよね……」 「俺が伸ばしてあげましょうか?」 「お願いします」    伸ばすって、マッサージとかかな?  と思って、少し上向き加減で目を閉じると、口唇に柔らかいものが当たった。 「ん!?……んっ村雨さ……っ」  キスは予想外だったのでちょっと驚いたが、優しく繰り返されるキスになんだか安心して村雨の首に腕を回していた。    いつもよりは短く、軽めのキスだけで村雨が口唇を離した。  少し物足りなさを感じたが、それでも十分…… 「ほら、眉間の皺とれたでしょ?」 「……ふぇ?あ!」  キスで蕩けている春海に、村雨が少し悪戯っぽい顔で笑った――…… ***

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