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Storm has arrived from England! 第28話(春海)
「律~?」
叔父の呼ぶ声で、今の状況を思い出した。
「とりあえず、台所を片づけますか」
「はい……」
「あ……春海さん、晩御飯作れそうですか?無理なら適当に何か買って来ますよ?」
「え、あ、大丈夫です!何とか……時間がないから凝ったものは無理ですけど簡単なものでよければ作れますよ!」
「そうじゃなくて……あ~……まぁ、春海さんが作れるならいいんですけど……」
「え?」
「なんでもないです。それじゃ行きましょうか」
村雨が少し苦笑いをしながら春海の頬を撫でると、先に部屋から出た。
ん?材料とか時間の話じゃないの?どういう意味だったんだろう?
村雨が何を言おうとしていたのかよくわからないまま、春海は料理に取り掛かった。
***
村雨は、片づけや掃除が苦手な叔父にも的確に指示を与えてあっという間に床を掃除し、マリアがお風呂から出てくると、「晩御飯まで休憩しててください」と二人をソファーに追いやって、壁や隙間の汚れまでキレイにしてくれた。
「村雨さんも休憩してください」
一段落ついたところで村雨にお茶を渡す。
「ありがとうございます。晩御飯できそう?」
「とりあえず、簡単にオムライスとスープにしました。火が通りやすくするためにスープも野菜を小さめにしたから、もうすぐ出来ますよ。電子レンジが使えればもっと早く出来たんですけど……明日新しいの買いにいかなきゃ……」
時短で作るには電子レンジが欠かせない。先に野菜をチンしておくだけで火の通りが全然違うのだ。
卵爆発だけなら、電子レンジの中を掃除すれば使えたかもしれないが、マリアは何を作ろうとしたのか他のものも入れたらしく、軽く煙が出て電子レンジのガラスが見事に割れていた。
火災事故にならなかっただけ良しとするべきか……
「ん?春海さん、レンジなら下にもありませんでしたっけ?」
「へ?……あっ!!」
「忘れてました?」
「忘れてました……」
茫然とする春海を見て、村雨が吹き出す。
まぁ、混乱してたから仕方ないですよ、と頭をぽんぽんと撫でた。
ほんとだ……下にも電子レンジあったんだった……あ~~~もぅ完全に忘れてたあああ!!!
店でも軽食を出しているので、一通りのものは揃っている。
普段から使っているのに、どうして忘れてたんだろう……
「でもまぁ、毎回下に行くわけにもいかないし、やっぱりこっち用に新しいのを買わなきゃですね」
「はい……」
「あ、春海さん、スープ、沸騰してますよ!」
村雨の言葉に振り返ると、沸騰したスープが鍋から吹きこぼれていた。
「えっ!ホントだ!あ、熱っ!!」
吹きこぼれることは珍しくないのに、なぜか焦って、火を止めるつもりが蓋を触ってしまった。
あ~もう!わたし何やってるの!?
「春海さんこっち来て」
春海を自分の方に引っ張って、村雨がすかさず火を止める。
「あの、一瞬触っただけだから、大丈夫ですよ」
「いいから……春海さん、ちょっと落ち着きましょうか」
少し驚いただけで、火傷などはしていない。
村雨が、笑って指を見せようとする春海を真顔で一瞥すると、グイッと抱き寄せ春海の指を冷やしながら、小さく息を吐いた。
「やっぱり、晩御飯、買ってきた方が良かったですね……」
「え……」
「そんな状態で料理したら、ケガするのはわかってたのに……すみません」
「いえ……あ、もしかして、だからさっき……」
自分ではそんなに動揺しているつもりはなかった。
確かに、昼からいろいろありすぎてずっと頭の中はパニックだったし、言葉にできないモヤモヤした感情が胸に渦巻いていたけれど……
春海は、共感力が強いので他人の感情に引きずられないように常に周囲とは壁を作っている。そのコントロールはできるようになったのだが、その分普段はあまり感情に波がないので、自分自身の感情が昂りすぎると、どうやってコントロールすればいいのかわからない。
村雨は春海がそういう状態になっているということに気づいていたらしい……
背中に感じる村雨の温もりで、気持ちが落ち着いていくのがわかった。
そうだ……落ち着かなきゃ……晩御飯を食べたら、村雨さんとのことを叔父さんたちに話すんだから!!
「こらこら春海さん?力 み過ぎですよ。大丈夫、何とかなりますから。ほら、深呼吸!」
「は、はい!」
あれ、待って!?
村雨さんの温もりに落ち着くけど、でも……
さっきから叔父たちに聞こえないように耳元で囁いてくるから、別の意味で落ち着かないんですけどおおおおおおおおおお!?
そのことに気づいて、だんだん顔が熱くなる。
「俺に集中してくれるならそれはそれで……いいですけど?」
「良くないですよぉおおお!!!」
思わず小声で叫んだ。
「ふ、はは、だって、俺のことで赤くなるのはいつものことなんだから、ある意味平常心になってるってことでしょ?」
「そういう……こと?」
「そういうことです。さてと、それじゃあ晩御飯にしますか」
「あ、はい……」
なんだか村雨さんに上手く言いくるめられたような気がするけれど……
多少解せない気持ちはあったが、村雨がその後も傍にいてくれたので、何とか晩御飯の用意ができた――……
***
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