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Storm has arrived from England! 第36話(春海)

「Hi! リツ!げんき?」 「Hello! スザンヌ、わたしは元気ですよ!あなたも……元気そうですね」  若干緊張しながら電話をした春海は、いつもと変わらないテンションのスザンヌに少し安堵した。 「それで、あの……話っていうのは……?」 「Oh! そうだ、あなたのDarlingにかわってちょうだい?」 「村雨さんに何の話があるんですか?」 「……ふふ、リツ、だいじょぶよ。いじめたりしないから」 「いじめるって……そんなことは心配してませんけど……わかりました。でも、本当に彼に変なことは言わないでくださいね!?」 「わかってるわよ~」  電話の向こうでスザンヌがカラカラと笑った。 「村雨さん、あの……スザンヌが代わってって……叔父みたいに一方的に言うような人じゃないので大丈夫だとは思うんですけど、でもあの……もし不快なことを言われたらすぐに代わってくださ――……」 「は~る~みさん。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」  村雨が春海の口に指を当てて、優しく微笑む。    心配するなと言われても……自分の身内のせいで村雨にまで嫌な想いをさせてしまうのは申し訳ないし……  しょんぼりと俯く春海の頭をポンポンと撫でると、村雨が受話器を受け取った――…… ***  春海は以前、村雨が風邪で寝込んでいた時に、村雨の伯母の照子に会った。  照子は村雨の恋人が男だと知ってびっくりはしていたが、何一つ否定しなかった。  いろいろ言われるだろうと思っていた春海は、照子があまりにすぐに受け入れてくれたので、拍子抜けしてしまった。  そんな春海に、照子は少しだけ昔話をしてくれた。  照子には血の繋がった子どもがいない。  結婚した時には子どものできない身体になっていたのだとか。  男女一人ずつ子どもがいるが、二人とも養子なのだそうだ。  そこに至るまでの話もしてくれたが、照子はかなり波乱万丈で壮絶な人生を送ってきていた。  どうして今そんなに屈託なく笑っていられるのかと聞くと、 「夫と、義理の両親が、受け入れてくれたからよ。それなりに由緒ある家柄の長男の嫁なんだから、子どもができないなら離婚されても仕方のないことだった。子どもができないということは、家が絶えるということだからね。それでも、恨み言や嫌味一つ言わずにそのままの私を受け入れてくれた。だから、養子を貰うことにして、その子達を自分の本当の子どもとして愛していこうって思えたのよ……」  と笑った。  照子は、“自分を受け入れてもらえるということ”がどれだけ生きる力になるかを知っている。  だから、自分も周りの人達を受け入れることができるのだと。  村雨に「彼女は?結婚はまだ?」と急かしていたのは、生に執着がなくなっていた村雨に、生きる希望を持って欲しかったから。  つまり、村雨が「この人のためになら少しでも長く生きていたいと思える人に出会うこと」が照子の願いだったので、春海が男だということよりも、村雨に寝言で名前を呼ぶくらい大切な存在ができたということが嬉しかったのだとか……  照子とはそのたった数時間話をしただけだったが、春海は照子が村雨の伯母で良かったと思った。  村雨の軽やかな物の捉え方や包容力はきっと照子の影響もあると思う。 「はぁ……」  スザンヌと話している村雨の様子を見ながら、春海は小さく息を吐いた。  春海は村雨の伯母に難なく受け入れて貰えて、嬉しい言葉をたくさんかけて貰えたのに、自分の身内には否定されるようなことを言われて、村雨にまで迷惑をかけてしまった……  そりゃ誰でもがすぐに受け入れられることじゃないのはわかってるけど……  スザンヌ……一体なんの話してるんだろう…… ***  村雨とスザンヌの会話が気になってヤキモキしていると、春海の携帯が鳴った。 「もしもし?」 「あぁ、律かい?あ~……身体は大丈夫かい?」 「叔父さん……はい、もう大丈夫です。どうかしましたか?」  叔父が若干気まずそうに話す。  春海も、昨日水をぶっかけてしまった手前、ちょっと気まずい…… 「あ、あぁ、え~と……今、マリアと買い物に来てるんだが、もうこのまま晩御飯もどこかで食べて帰ろうかなと思ってね。マリアも日本に来るのは久しぶりだし、いろいろと気になる店や食べ物があるみたいで……」  そう言われて時計を見ると、もうすぐ18時だった。  え、もうこんな時間!?あ~……そうか、わたし起きるのが遅かったから……   「律?聞こえてるかい?」 「あ、はい!聞こえてます。晩御飯を食べて帰って来るんですね?わかりました。でも、あまりお酒飲み過ぎないようにね!?」 「はは、わかってるよ。今日はマリアがいるから大丈夫さ。それじゃぁ、また後で」 「はい、気を付けて」  通話を切ってふと前を見ると、村雨が春海の顔をじっと見ていた。 「あれ?あ、もう電話終わりましたか?」 「はい、終わりました。今の電話は?」 「あ、えっと、叔父たちから晩御飯は外で食べてくるって……」 「あぁ、じゃあ晩御飯も俺たちだけですね」 「はい……あの、それでスザンヌの話って……?」 「ん~……」  スザンヌのことを聞くと、村雨がちょっと微妙な顔をした。 「な、何言われたんですか!?あの、スザンヌまで何か嫌なことでも言っ――……」 「春海さん、落ち着いて!?」 「すみません……」 「いや、春海さんが謝ることじゃないから。それにスザンヌには別に嫌なことなんて言われてませんから大丈夫ですよ」 「そうなんですか?」  良かった……でも、それじゃあ一体何の話が? 「うん、まぁ……マリアたちが晩御飯食べて帰って来るなら十分時間はあるかな。お茶でも入れましょうか?飲みながら話しますよ」 「ああ、わたしが入れます!!ほら、もう手が使えるし!!」 「そうですね、じゃあお願いします」  春海が村雨の前で両手をひらひらさせると、村雨が小さく吹き出した。 ***

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