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Storm has arrived from England! 第38話(村雨)

「え~と、だいたい今のでスザンヌとマリアの実父とおじさんの話は終わりですけど……わかりましたか?」 「……あ~……えっと……ちょっと待ってくださいね……ぅ~~……何なんですかそのややこしい関係はっ!?」  春海が頭を抱えて唸った。  予想外の叔父たちの過去に混乱しているようだ。 「はは、ややこしいですよね……本当はもっと詳しく話してくれたんですけどあまりに長かったので端折(はしょ)らせてもらいました。知りたければ、また寝物語にでも話しますよ。後、スザンヌはほとんど英語だったんで、もしかしたら解釈がちょっと違うところとかもあるかも……でもまぁ、結局のところ、スザンヌとおじさんは二人ともジョージのことを愛していたってことですね」  一応、少しでも就職活動を有利にするために英語はそれなりに勉強してあったので、ある程度は理解できるのだが、スザンヌの英語は少し鈍りというか、クセがあって、しかも早口なので聞き取るのが大変だった。  しばらく使ってなかったし、また英語勉強し直そうかな…… 「あの……スザンヌは、ジョージが同性愛者だと知って驚かなかったんですか?」 「何となく気づいていたみたいですよ。ベッドの中での様子や普段の様子から薄々、もしかしたら女性は苦手なのかもって……さすがに浮気してるとは思ってなかったみたいですけどね」 「そうなんだ……わたし、祖父たちから、スザンヌは前夫とは離婚していて、離婚した後に子どもがいることがわかったけど、一人で育てていこうと決めて頑張っているところに叔父と出会って、叔父が一目惚れして猛アタックしてスザンヌと結婚したって聞いていました……」  春海が、微妙な顔をして俯いた。  聞かされていた話とのギャップに困惑しているらしい。 「うん、スザンヌも春海さん達とマリアにはそう言ってあると……まぁ、こんな話を春海さんのおじいさんたちにしたら卒倒しちゃうでしょうしねぇ……離婚したって言うのが一番無難だったんでしょう。でも、マリアが20歳になったから、そろそろちゃんとジョージのことも話さなきゃと思っていたらしいです」 「マリアも知らなかったんですね……」 「はい。で、そんな矢先にマリアからおじさんが春海さんに酷いことを言ったと聞いて、それで昨夜おじさんに電話をしてきたらしいですよ」 「あぁ……」 ***  昨夜、スザンヌは亮介に「自分も同性を愛していたのに、リツに恋人と別れろと言うなんておかしい!どうしてそんなことを言ったの!?」と理由を聞いた。  亮介の言い分は、 「俺はジョージを愛していたけれど、あれはってやつだよ。第一、俺たちはプラトニックな関係だったし、そんなのただの親友と変わらないだろ?だからジョージと別れようと思ったんだ。でも俺たちは付き合いが長かったせいで……お互いに情が移っていたから別れを切り出した後あんなことになってしまった。だけど、律と彼はまだ半年だ。今なら別れてもすぐに立ち直れる。それに律はゲイじゃない。きっと今はちょっと……雰囲気に流されて彼を愛してると思い込んでいるだけなんだよ。女性と付き合えばやっぱり女性の方がいいって気づけるさ。彼とはこれからは友人として付き合っていけば――」  というものだったらしい。  が、スザンヌがこの言葉に激怒した。 「何グダグダ言ってんのよ!別れるタイミングなんて何回もあったはずなのにプラトニックな関係でジョージと一緒にいることを選んだのはあなたでしょう?だいたいねぇ、あなたのとやらで旦那を取られた私は一体どうなるのよ!?さぞかし滑稽(こっけい)(みじ)めな女に見えたでしょうねぇ!?」 「え、いや、そんなことは……あのねハニー?俺は……」 「おだまりっ!!言い訳なんて聞きたくないわ!!女性と付き合えばやっぱり女性が良いって気づけるですって!?愛してもいない相手と一緒になったところで幸せにはなれないのよ!どちらも惨めな想いをすることになるだけ!私とジョージのことを知っているクセによくもそんなことが言えたわねっ!?――」 *** 「ってな感じでね……スザンヌがぶちギレして、離婚話にまでなったみたいです」 「ええええ!?そんな……」 「あぁ、大丈夫ですよ。結局おじさんが謝り倒して、ジョージのことを心から愛していたことを認めて、スザンヌのお願いを全部聞くと約束をして、何とか離婚の危機は(だっ)したみたいです」 「そうなんですか!?はぁ~……良かった……」  春海がほっと安堵の息を吐いた。 「なんだか……スゴイですね……。叔父もスザンヌもジョージのことが本当に好きだったんでしょうね。ジョージの愛が全て自分に向いていないことが辛くて、苦しくて、でも愛してるから別れられなくて……」  春海が、遠き日の三人に思いを()せて、少しセンチメンタルになっていた。    あ、春海さんちょっと流されてるな……  他人の、しかも過去の話のせいで春海がそんなに感傷的になる必要はない。  春海は昨日からちょっと精神的に不安定になっているので、恐らく共感力のコントロールがうまくできなくなっているのだろう。 「そうですね……まぁ、おじさんたちは随分と込み入った恋愛をしてきたみたいですけど、俺は、春海さん一筋ですからね?俺の愛は全て春海さんだけに注がれてますから!!」 「え!?あ……ありがとうございます……あの、もちろんわたしも村雨さん一筋です!!」  しょんぼりしていた春海が、村雨の言葉を聞いて頬を染めながらはにかんだ笑顔を見せた。    あ~、もうホント可愛い!俺の春海さんは誰より可愛い!唯一無二!!    スザンヌから聞いた亮介の言葉に若干イラついていた村雨は、春海の笑顔に心の中で悶絶した。 「じゃあ、おじさんが帰ってきたら話し合いの続きをしてみましょうか。おじさんが俺たちの関係を反対する理由はわかったし、スザンヌがこっち側についてくれたので、たぶんすぐに話し合いは終わりますよ」  村雨は、にっこり笑って春海を抱き寄せた―― ***

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