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Storm has arrived from England! 第41話(春海)
「さてと、話し合いの続きをしましょうか」
村雨が有無を言わせぬ笑顔で、叔父を椅子に座らせた。
叔父は、昼過ぎにしじみの味噌汁を飲んだ後、また眠って、夕方頃起きてきた。
そして、あろうことか性懲 りもなく飲みに出かけようとした。
そんな叔父を春海が頑張って引き止めているところに村雨が帰って来たのだ。
「お酒なら昨日いい加減飲んだでしょう?もっと飲みたいなら、まずは先延ばしにせずにちゃんと話し合いを終わらせるべきです。そうすれば、いくらでも飲みに行っていいですよ」
口元は笑っているけれど、だいぶ村雨がイラついているのが春海にはわかった。
「叔父さん、お願いだから、ちゃんと話しをさせて。まず、一昨日は、いきなり水をかけちゃってごめんなさい。いくら叔父さんの言い方が気に食わなかったからって、わたしもちょっとやりすぎました……」
「……いや、律は悪くないよ。あれは僕が悪い。すまなかったね」
「ジョージのこと……」
「!?」
村雨がジョージの名を口にすると、叔父が一瞬目を見開いて二人を見た。
「スザンヌから聞きました」
「……そうか」
「あなたが春海さんにあんなことを言った理由は、なんとなくわかりました」
「あぁ……」
「でも、あなたは勘違いをしています」
「勘違い?」
「俺たちとあなたたちは違う。ジョージにはスザンヌという妻がいたから、あなたは不倫という形でずっとジョージとプラトニックな恋人関係にあったんですよね?」
「あぁ、そうだ」
「俺と春海さんはお互いフリーの状態で交際を始めました。そして今もお互いに別の相手なんていない。俺には春海さんだけだし、春海さんも俺だけ。あなたたちと違って、俺たちはお互いを一番愛してる。だから、あなたとは状況が全然違うんですよ」
「……っ!」
村雨が、叔父に言い聞かすように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
静かな中にも言葉に力強さがあって、村雨の意志の固さを感じられる。
どうしよう……村雨さんが格好いい……!!
叔父には悪いが、春海は村雨が二人のこれからのために叔父に真剣に春海への愛を語ってくれているのが嬉しくて、さっきから顔がにやけそうになるのを堪えるのに必死だった。
「今はそうかもしれない。でも、君もゲイじゃないと言ったな?それなら、いつか女性の方がいいって思うかもしれないだろう?」
「心変わりは、男も女も関係ないですよ。他に好きな人ができる確率が全然ないとは言い切れません。ただ、俺は今まで何人かの女性と付き合ってきましたけど、春海さんに思ってるほど大切にしたいとか、一緒にいたいとか、思ったことがないです。春海さんは俺にとって特別なんですよ。だから、この感情をこれから先他の誰かに抱く確率は、ほぼ0ですね」
「わ、わたしも!!あの……横からごめんなさい。あのね、叔父さん。わたし、その……性欲があんまりないんです……」
「……へ?」
横から割り込んでいきなり何の話をしてるんだ?というように叔父がぽかんと口を開けて春海を見た。
いや、わかりますよ?わたしもなんでこのタイミングでこの話をしようと思ったのか自分に問いたい……
ただ、村雨さんの話を聞いていて、自分にも村雨さんしかいない、村雨さんが他の人とは違う存在なのだということを説明しようと思ったら、性欲の話が一番わかりやすいかな~って……
「だからその、セックスしたいとかキスしたいとかそういう欲が少ないんです!!女の子と付き合ったことはあるけど、好きだとは思っても、全然そういうことをしたいとは思わなくて、それで正直にそのことを言ったら、本当は好きじゃないんでしょって勘違いされて振られちゃって……村雨さんと付き合い始めてからも、そういう行為が嫌だとは思わないけど、別にわたしは一緒にいられたらすごく満足できて、心が満たされて……そんなの村雨さんにとってはいろいろと我慢させちゃってるだけなんだけど、でも、村雨さんはそんなわたしのことをちゃんと理解してくれて、わたしの気持ちを優先してくれて、無理強いとかしないし、すごく大事にしてくれて……そしたらね、村雨さんと一緒にいると何だか、もっと触って欲しいなとか思うようになってきてね……なんかその……村雨さんにだけは性欲を感じるっていうか……あの……その……」
話ながらだんだん自分で何を言っているのかわからなくなってきた。
「あ~……えっと、春海さん……ちょっとストップ」
「え?あああの、村雨さん?どうしたんですか!?」
村雨が急に春海に抱きついてきた。
「はぁ~~~……もぉ~何ですかそれ……そんなこと俺初耳なんですけどっ!?」
「えっ!?ななな何が!?」
春海の耳元で囁く村雨の声に思わず顔が赤くなる。
待って、何事!?どういう状況なのこれ!?
「そんな、俺にだけは性欲を感じるようになってるとか……俺初耳ですよ!?そういう大事なことは先に二人だけの時に言ってくださいよおおおおおおおお!!!」
「ええ!?わたし言ってませんでしたっけ!?」
「聞いてないですよぉ~!!いつでも店を休めるから、また春海さんを抱けるっていうのは聞きましたけど!!でも、そんな……俺には感じてくれてるとかっ……急に聞かされる俺の身にもなって!?今俺キスしたいのも押し倒したいのもめちゃくちゃ頑張って我慢してるんですからっ!!」
「えっ!あ……あの……すすすすみませんっ!!」
うわぁ~!!わたし村雨さんには言ってあると勝手に思い込んでたぁ~!!
「ごほんっ……え~と……君たちはいつまでそうやってるつもりかな?」
「あっ!!あの……え~と……叔父さん、ちょっと待ってくださいね!村雨さん、その話はまた後でいいですか!?とりあえず、叔父さんとの話の続きを……」
「あ、すみません。んん゛、少し取り乱しました」
村雨が春海から離れて、何事もなかったかのように叔父に向き合った。
春海は、さっきまで耳元で聞こえていた動揺した様子なんて微塵 も感じさせない村雨の変わりように感心してマジマジと村雨の横顔を見つめた――
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