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Storm has arrived from England! 第44話(村雨)

「春海さんっ!?ちょっ……あ、え~と、マリア、ご飯できてるからお父さんと二人で先に食べてて?」 「OK!」 「春海さん、待ってっ!!」  村雨は、マリアたちに先に食べててくれと頼んで、自分は春海を追いかけた。  春海の部屋の扉が閉まりかけているのを見て、咄嗟に足を滑らせて挟み込もうとした。  理由はわからないが、逃げ込もうとしていたくらいなのだから、そのまま扉を閉められると鍵をかけられると思ったからだ。    結果……見事に扉に挟まった。  勢い余ってスリッパと身を分離させることに失敗したのだ。  あ……  ガンッという音の後、村雨と春海の動きが一瞬止まった。  一呼吸置いて、思わず村雨が叫んだ。 「痛ってぇええっっっ!!!」 「えっ!?ちょっ、村雨さん!?あああ足っ!!!大丈夫ですかっ!?ごめんなさい、わたし気づかなくて……」 「~~~~~っだ、だいじょう……ぶっっっ」 「こ、氷持ってきます!!」  足を押さえてしゃがみ込む村雨の横を通って、春海がまたキッチンに戻って行った。  何事かと心配するマリアたちに「なんでもない~!」と言いながら、すぐに氷とタオルを持って帰って来た。   「あの、あの、足、冷やしましょう。えと、ベッドに座れます?」 「ん゛~~~~……っっちょっと待ってっっ……」  普段あまりケガをしないので、久々の痛みにさすがにちょっと涙が浮かんできた。 「え、どうしよう。骨大丈夫ですかっ!?折れてる!?ヒビとか入ってません!?」 「いや、わかんないけど……あ~ちょっとマシになってきたかな。折れてたら色が変わって来るからそのうちにわかるでしょ」 「いやいや、そういう問題じゃなくてっ!!折れてたら大変じゃないですかっ!病院行かないと!!」 「あ~、まぁ、それは折れてたらの話ね。たぶん大丈夫ですよ。それより、氷貰っていいですか?」  ベッドに腰かけて春海が抱え込んでいた氷を受け取ると、自分で患部に当てた。 「ごめんなさい……あの、本当にすみませんっっ!!」 「……あ~あ、足……折れてたら外回りキツイな~……」 「ででですよねっ!?どうしよう、あの……わたしどう償えば……」 「ぶはっ……っ!ははっ、嘘ですよ。そんな大げさに心配しなくていいですって。これくらいなら、普通に仕事できますから。それに、足を挟んだのは俺がドジったせいだし」  今にも泣きそうな春海の頭をポンポンと撫でる。 「でも……」 「それより、さっきの。一体どうしたんですか?」 「え?」 「なんで急に部屋に逃げたくなったの?」 「え……あっ!」 「もしかして、忘れてた?」 「だって、今は村雨さんの足のことで頭がいっぱいで……っていうか、さっきのはあの……本当にくだらないことだから……気にしないでください」  春海が、苦笑いをして目を逸らした。 「くだらなくないでしょ?」 「……へ?」 「春海さんにとってはくだらなくないことだったから、逃げたくなったんでしょ?言ってみてください。ちゃんと聞くから」 「あの……」 「はい」 「名前……が……」 「名前?」 「……わたしはいまだに『村雨さん』って呼んでるのに、マリアは『マサ』って呼んでたのがなんか……悔しいっていうか……ズルいって思っちゃって……だから、ただの嫉妬なんですっ!!ごめんなさいっ!!」  え、何それ、可愛すぎるだろっ!どこの天使よ!?あ、俺の天使だったわっ!! 「んん゛……え~と……だから、春海さんも『マサ』でも何でも、呼びたいように呼んでくれていいんですよ?」 「違うのっ!!わたしは別に……その……『村雨さん』でもいいんですけど……っていうか、下の名前は呼んでみたいけど、まだ恥ずかしいから……だけど、なんか自分が呼べないのをマリアがあっさり呼んでるのが悔しいっ……もぉ~自分でも何言ってんのかわかんないからもういいですっ!!この話は忘れてくださいいいいいっ!!」  春海が枕を抱きしめて顔をボスっと埋めた。    う~ん……呼びたいけど呼べない……か……まぁ、俺もなんだかんだでずっと『春海さん』って呼んでるしな~…… 「……顔見せてよ、春海さん」 「……」 「(りつ)さん、顔見せて?」 「……え!?」  村雨が名前を呼ぶと、春海が驚いて顔を上げた。 「律さん、もうちょっとこっち来てください。俺今動けないから」 「あ……はぃ……」  呆けた顔で春海が村雨の隣に座った。 「俺、これからは『律さん』って呼びますね。実は、マリアたちが来た時から考えてはいたんです。今までは『春海さん』は一人だったから、不自由はなかったんですけど、亮介さんやマリアが来て、あの二人も『春海』だな~って思ったら、なんか、『春海さん』って呼んでるのはややこしいっていうか、変ですよね」  『春海』姓が3人揃っているこの家の中で、律のことだけを『春海さん』と呼ぶのは自分でも何だか違和感があったのだ。 「そ……うですね……」 「名前……ダメ?『律さん』以外の呼び方の方がいいですか?常連さんみたいに『りっちゃん』とか?」 「えっ!?いえ、あの……全然、何でもっ!!村雨さんの好きなように……呼んでくださいっ!」 「良かった。じゃあ『律さん』で。というわけで、律さんも、俺のこと名前で呼んでみましょうか?」 「え?」 「どうせなら、一緒に呼び方変えましょうよ。ね?」 「あ……えと……それじゃぁ……ま……真樹(まさき)さん?」  春海が、恥じらいながら村雨の名前を呼んで小首を傾げた。  なんだこのあざとい子!!誘ってる?ねぇ、誘ってる!?俺が足負傷して動けない時にそういうことしてくるんだもんなぁ~!!あ~あ、まったく……っ押し倒したい……!! 「あれ?村……あ、えと、真樹さん?どうしたんですか?あ、マリアと同じように『マサ』って呼んだ方がいいんでしょうか!?」 「いいえ!?真樹で大丈夫ですよ?なんなら、呼び捨てでいいですからね!?俺の方が年下だし!」 「えええ、いやそれはまだハードルが高いですううっ!!」 「Hey! What are you doing(何やってるの)?」 「あ……」 「え……?」  村雨が春海の手を握って迫っているところに、マリアが入って来た。 「何でもないですよ。ちょっと名前の話をね……マリアはご飯食べたんですか?」 「もう食べたよ~!律もマサも来ないから呼びに来たよ」 「あっ、ごめんなさい!わたしが村雨さんの足を……」 「り~つ~さん?」 「え?あっ、えと……真樹さん……の足を……」 「足!?Oh! どうしたの!?痛い?」 「いや、大丈夫――……」  ――結局、足はヒビが入っていて、全治1か月だった――…… ***

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