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名前呼び 第46話(村雨真樹)
どうも……ムー・マサキです!
付き合って半年が過ぎ、ようやく恋人と名前呼びが出来るようになりました!
そして、俺の名前は、ムー・マサキになりました。
なぜなら――……
「む……ぁ……真樹 さん!お帰りなさい!」
「ただいま、律 さん」
俺の恋人、春海さん、改め律さんが、まだ俺の名前を呼ぶのに慣れていないので、毎回頭に「む…」とつけてしまうからです……いや、いいんです。もう俺が「ムー・マサキ」に改名すればいいだけの話だから!
真樹は鞄を床に置くと、苦笑しながら律を抱きしめた。
「おっかえりぃ~!Oh! マサ!私もハグぅ~!!」
律の後ろから、マリアが顔を出した。
真樹と律がハグをしているのを見ると、マリアまで両手を広げて抱きついてきた。
「ただいま、マリア。って、なんでマリアまでハグ!?」
「え、ダメ?ハグは恋人じゃなくてもするよ?」
「まぁ、そうですけど……」
なんというか……一応ライバル関係のはずのマリアに、なぜか微妙に懐かれている……気がする……
「あ、ちょっ重いっ!マリア、体重かけてこないで。足がっ……!!」
「Sorry ! マサは力弱いね~、イギリスの男だったら、みんな律とマリアくらい簡単に抱き上げるよ?」
前言撤回。懐かれてるんじゃなくて、軽くディスられてます。
「あのねぇ……俺今は足ケガしてるからね?ケガしてなかったら、二人くらいなら……いや、二人はキツイか。まぁ、少しなら抱き上げられるけど……」
「ホント!?じゃあ、早くケガ治して!」
「マリアが体重かけてくるの止めてくれたら早く治りますよ――」
まったく……足が治ったら覚えてろよ!?
「はいはい、マリア。む……えと……真樹さんを困らせちゃダメでしょ?ほら、先に鞄持って行って下さい。それから、スープ温めてくださいね。ご飯にしましょう」
「OK~!」
マリアは、律から真樹の鞄を受け取ると、律の部屋にポイっと放り込んだ。
おいこら、人の鞄を投げるんじゃありません!!
「マリアっ!投げちゃダメ!!」
「ごめんなさ~い!ふっとんだー!ふとんがーふっとんだー!あははっ!!」
マリアが使い古されたダジャレを言いながら、キッチンに逃げて行った。
いや、布団じゃないよ!?それ鞄だからっ!!
「あ~もう……すみません!あの子ったら……昼間常連さんたちにダジャレを教えて貰ったみたいで……」
律が、完全に子どもの不始末を謝る親の顔をして真樹を見た。
「律さんが謝ることないでしょ。まぁ、割れるようなものは入ってないから大丈夫ですよ」
なるほど、常連さんたちね……道理でネタが古いわ……
真樹は、律に肩を借りながらソファーまで移動し、足を上げて一息ついた。
「足の具合どうですか?やっぱりこの足で外回りは大変ですよね……」
「ん~……まぁ何とか大丈夫です。ヒビ自体は小さいからすぐ治ります……よっ!」
真樹は少し上体を起こすと、足元に立ってしょんぼりとギブスの巻かれた足を見つめる律の腕を引っ張った。
「わっ!!ちょっ……」
バランスを崩して真樹の上に倒れ込んできた律を抱きとめる。
「どうせ眺めるなら、足より顔にしてくれません?そしたら俺も律さんの顔がじっくり見えるし」
「えっ!?あああの……村雨さん!?」
「り~つ~さん?」
「あ、えと……真樹……さん」
「はい、何ですか?」
「え?えと……あの……」
律が頬を染めて視線を泳がせた。
あ~キスしたい……
真樹が律の顔に触れて、口唇を近づけようとした瞬間
「Excuse me ?」
二人の顔のすぐ隣に、マリアの顔があった。
「おわっ!?いつのまに!!」
「り~つ~!お腹空いたよ~!ご飯食べよ~!?」
「あ、はい。そうですねっ!!ご飯ね、ご飯!!」
律は急いで起き上がると、マリアに引っ張られるようにキッチンに行ってしまった。
マリアぁああ!!せめて律さんとキスするまでは待ってよぉおお~~~!!
そりゃまぁ、マリアも一緒に住んでるんだから今までみたいに家の中どこでもイチャイチャできるわけじゃないのはわかってるけど……むしろ、日本人の女の子と同居だったらもっと気を遣っていたはずだ。
マリアはハグやキスは愛情表現として当たり前だと思っているから、俺たちがしていても何も言わない。
ただ、仲間外れにされているのが淋しいのか、律を取られて嫉妬しているのか、さっきみたいに軽く邪魔はする。
やれやれ……ライバルっていうより、なんだか大きな娘が増えた感じ?
楽しそうにキッチンで笑っている二人を見ていると、嫉妬心が湧いてくるというよりも微笑ましくなる。
って、ライバルに対してそんなことを思ってる時点で、俺上手いことマリアに手玉に取られてるんじゃないのか?
まぁ、いいか。それはそれで……俺も案外この状況を楽しんでいるし――……
***
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