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お留守番 第47話(村雨真樹)

「熊田さん、お久しぶりです!というか、実際お会いするのは初めてですよね!」 「そうですね、どうも熊田 剛(くまだ つよし)です」 「あ、春海 律(はるみ りつ)です!その節はいろいろとお世話になりました!!」  真樹(まさき)は、ソファーに座ったまま、律と先輩のやり取りを眺めていた。  二人は実際に会うのは初めてだが、何だかんだで通話でのやり取りはしていたので、真樹が紹介するまでもない。    そういや、先輩って(つよし)って名前だっけ……  知ってはいたけど、基本的に“先輩”と呼ぶので、真樹はほとんど下の名前を呼ぶことはない。 「それじゃ、む……ぁ、真樹さん、出掛けてきますね!」 「はい。先輩、律さんのことよろしくお願いしますね!」 「はいよ~。買ったらさっさと帰って来るから心配すんな。それじゃ行ってきます」 「行ってらっしゃ~い」  真樹は、笑顔で手を振り送り出した後、先輩と律が仲良く出ていった扉を恨めしそうに眺めた。  どうしてこんなことになっているのかと言うと……  話は数日前に遡る――…… *** 「む……えっと、真樹さん、足が完治するまでしばらくかかりそうですか?」  ギブスを巻いて帰って来た真樹に、律が浮かない顔をして聞いてきた。 「そうですね、1か月はかかりそうです」 「そうですか……」 「どうかしましたか?」 「あ、いえ……あの……電子レンジを買いに行けてないので、どうしようかなと……」 「あっ!そういえば……」 「まぁ、店の方にもあるし、そんなに急ぐ必要はないので……真樹さんの足が治ってからでも全然大丈夫です!」  住居の方にある電子レンジはマリアにぶっ壊されたままになっている。  最初は翌日にでも買いに行くと言っていたのだが、叔父である亮介(りょうすけ)との話し合いが(こじ)れたり、律が倒れたりとバタバタしていたので、まだ買いに行けていなかった。 「でも、あった方が何かと便利ですよね?いちいち店に下りていくのも大変ですし……」 「ずっとじゃないですから大丈夫ですよ~。それにいい運動にもなるし!」 「階段の往復がですか?」 「ぅ……それくらいじゃ運動になりませんかね……」 「いや……いいと思いますけど……っはは」 「もぉ~!そんな笑わなくても……」 「すみません……ふふ……足は大丈夫だから次の休みにでも買いに行きましょう。あ、そうだ!電子レンジのこと、先輩に聞いてみましょうか!?」 「え?」 「先輩ね、何気に家電好きで、なんか性能とか価格とかいろいろとリサーチしてるから、一緒に買いに行ってもらうと頼りになりますよ?」 「そうなんですか!?」 「明日聞いてみますね――」 ***  というわけで、先日会社で先輩にお願いしていたのは、このことだ。  最初は真樹も一緒に行くつもりだったが、「仕事で足を酷使(こくし)しているので、休日くらいはゆっくりと休めておかないとなかなか治らないですよ!」と二人に言われて、渋々留守番をすることになったのだ。 「俺も行きたかったな~……」  律と買い物に行くことも普段はなかなかできないので、本当はかなり楽しみにしていたのだ。  足を怪我したのは自業自得だけどさ……  マリアは、また常連さんに誘われて、今日は将棋倶楽部の見学だ。  律さんのおじいさんも将棋が好きだったとかで、マリアも子どもの頃少し見たことはあるらしいが、やり方は全然わかっていない。  今日は常連さんがルールを教えてくれるとのことで、朝から張り切って出かけて行った。  この家にひとりになるのは初めてだな……  当たり前だが、いつも律と一緒にいるので、なんだかひとりだと広く感じる。  真樹は、自分の家でもひとりになるのは苦手だった。  ひとりになると、余計なことを考えてしまう。  ましてや、他人の家でひとりになるのはちょっと……と思っていたのに、先ほどから全然イヤな気がしない。  ひとりでも居心地がいいと感じるのは、きっと、少し待てば律が帰って来るとわかっているからだ。 「勉強でもするか……」  真樹はソファーに横になって本を開いた――…… ***

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