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ため息の花束 第49話(村雨真樹)
あ~日付変わった……
真樹 は腕時計を見てため息を吐いた。
深夜のコンビニで弁当を選びながら、便利な世の中になったなぁ~とふと思う。
自分で料理が出来ない人や、深夜まで仕事をしている人にとって、コンビニは必要不可欠なものだ。
料理が苦手な真樹も、コンビニの恩恵を受けている一人だ。
ちょっと前までは、いろんなコンビニのお弁当を食べ比べて、どこのコンビニ弁当が量が多くて美味しいかだなんて勝手にランク付けしたり、新商品が出ると早速買って食べてみたりして…それが一人暮らしの密かな楽しみでもあった。
でも今は……
律さんのご飯が食べたい……
律と付き合い始めてから、コンビニ弁当を食べる機会はかなり減った。
仕事が忙しくて会いに行けない時は、こうやってコンビニ弁当のお世話になっているのだが……
味がどうこうよりも、一人で食べることが虚しい……
コンビニ弁当だって、最近は各社試行錯誤を重ねて、昔よりもかなり美味しくなってきている。
だけど、誰もいない部屋で一人で食べるのは、手作りだろうがコンビニ弁当だろうが、味気ない……
仕方ないけどな……とりあえず週末までの我慢だ!
適当に弁当を選んで、痛む足を引きずるようにして家路についた。
***
真樹は部屋の灯りを付けるのも面倒で、帰りつくなり鞄も弁当も床に放り出し、そのままベッドに倒れこんだ。
疲れたぁ~~~……
……あれ?
微かに、嗅ぎ慣れた自分以外の香りがして目を開ける。
いやいや、まさかでしょ……?
慌てて起き上がって、部屋の灯りをつけた。
「律さん!?」
律が、真樹のベッドの端っこで、小さく身体を丸めて眠っていた。
え?俺とうとう幻が見えるようになった!?
疲れすぎっ!?
それとも、もうこれ夢の中か!?
夢かもしれないと思って、そろりそろりと律に近づく。
律さんだと思って抱きついたら、顔が先輩に変わるとかないよな?
なんだか以前そんな悪夢を見たような気がする……
頬に触れると、ピクリと律が反応した。
「ん~……」
「律さん?」
「ふぁい……?あっ!お、お帰りなさいっ!!」
律が目を開けて真樹を見ると、慌てて起き上がった。
「ただいまです……え、本物?なんでここにいるの?」
「はい、本物ですっ!……勝手に入ってごめんなさいっ!」
「いや、それは全然いいんですけど……」
「えっと……前に、いつでも来ていいって……言ってくれてたから……」
「あぁ……」
そういえば、鍵を渡した時にそんなことを言ったような……
うん、それはもう……律さんなら別にいつでも来てくれていいんだけど、でも……
「え、でもこんな時間にどうしたんですか?何かあった?」
確か数時間前に電話した時は変わりなかったはずだけど……
「あの……会いたくて……来ちゃいましたっ!……あ、晩御飯も持って来てるから、良ければ食べて下さい!」
「え……」
律が少し頬を染めて、はにかんだ笑顔を見せた。
来ちゃいましたっ!って……え、何なのそれ、可愛すぎる!しかも晩御飯まで持って来てくれてるとか、何この天使っ!!
疲れた脳には刺激が強すぎて、思わず真顔で固まってしまった。
「あ……ごめんなさい、疲れてるのに迷惑でしたよね……。あの……タッパーはまた回収に来るからそのまま置いといてください!え~と、あ、後、お風呂も沸いてるから、ちゃんと入って疲れ取って下さいね。それじゃあ……わたし帰りますね!!ちょっと顔が見たかっただけなので……ゆっくり休んでください。おやすみなさいっ!」
「え、待ってっ!!」
真樹は、急いで帰ろうとする律の腕を慌てて掴んだ。
律の言動に脳内で悶えていただけなのだが、どうやら律は何も言わずに固まる真樹を見て、怒っていると思ったらしい。
「ちょっと待って、ごめん、今疲れてて頭が回ってなくて……嬉しすぎて固まっちゃってました」
「……嬉しい?」
「はい、めちゃくちゃ嬉しいです!」
「迷惑じゃないですか?」
「なんで?律さんがわざわざ来てくれたのに迷惑だなんて思いませんよ!?」
「だって……真樹さん忙しそうだし……今はわたしに会いたくないのかな~って……」
「いやいや、だからそれは……律さんのところに帰るって言ったら、律さん起きて待ってるでしょ?でも、何日もこんな遅い時間まで待ってて貰うのは申し訳ないから、だから落ち着くまではこっちに帰って来ようかなって……あのね、俺が律さんに会いたくないなんて思うことはないですからね!?今だって、律さんに会いたいって思いながら帰ってきたら俺のベッドで寝てるんだもん。何のご褒美かと思ったし!!」
いやもうホントに……もうちょっとで襲うところだったよ……?
すぐに律さんが目を覚ましたから正気に戻れたけど……
「……そうなんだ……良かった」
律が強張らせていた表情をフッと緩めた――……
***
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