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ため息の花束 第50話(村雨真樹)

「というわけで、ご褒美下さい」    真樹(まさき)は、(りつ)ににっこり笑いかけた。 「え!?」 「え?」 「ご褒美って……あっ、晩御飯ですか!?すぐに温めてきますね!!」  律がちょっと考えて、わかった!とばかりに両手をパチンと合わせた。 「ちっがーう!!晩御飯も食べたいけど、その前にこっちでしょ~?」 「へ?……ぁ」  予想通りの律の反応に思わず苦笑しながら抱き寄せて口唇を重ねた。  真樹が軽く触れるだけで離れると、あれ?という表情(かお)で律が上目遣いに見上げて小首を傾げた。  ん~……あざと可愛い!けれども…… 「ん?」 「え、あ……いえ何でもないです」 「り~つさ~ん?ご褒美は?」 「え?ご褒美は今……」 「俺からするのはいつもでしょ?ご褒美なんだから律さんからして欲しいな~」 「ふぁっ!?わたしからですかっ!?」 「はい、いつでもどうぞ」  真樹が軽く目を瞑って待っていると、たっぷり30秒くらい待たされてからようやく頬に一瞬柔らかいものが当たった。  やっぱりそっちかぁ~…… 「り~つ~さん?」  片目だけ開けて、ジト目で律を見る。 「あああのごめんなさいっ!!えと、やっぱり口……ですか?ですよね!!」  律が顔を真っ赤にして、視線を泳がせながら俯いた。 「ふふ……いや、これで良いですよ。じゃあ、晩御飯食べようかな――」 「え、あ、待って!」  真樹が苦笑しながら立ち上がろうとすると、律が慌てて真樹を引っ張った。 「ん?……わっ!?」  たぶん、律は普通に真樹を座らせようとしただけなのだろうが、今の真樹は足をケガしている上、疲れ切っていて身体に力が入らないので、簡単にバランスを崩してしまいベッドに押し倒される形になった。  あら~……いい眺め。って、俺が押し倒されてる側じゃないかっ!まぁどっちでもいいけど。  律さんを下から眺めるのも久しぶりだな~と、地味に楽しんでいると、真樹を見下ろしていた律の顔が一気に茹でダコ状態になった。    おっと……律さんそろそろ限界かな? 「わっ!?ごごごごめんなさいっ!!重いですよね!?すぐに退きま……」  真樹の上でアタフタしている律を抱きしめる。 「押し倒すだけですか?ここまでしておいて続きはないの?」 「えっ!?いえ、あの、おおお押し倒すつもりは……」 「なんだないのか~……」 「あの……あの、ちょっとだけ待ってっ!!ここ心の準備がですねっ!?久しぶりだからその……っ」 「ふっ……くくっ……ごめんごめん。久しぶりに会うからちょっとだけはしゃいじゃいました」  律のあまりの慌てぶりに思わず吹き出してしまった。  これくらいにしておかないと、泣いちゃいそうだな。 「ご褒美はコレでいいから、少しだけこのまま抱きしめててもいいですか?」  律の背中をポンポンと撫でて落ち着かせる。 「え……あ、はい……」  律が少し力を抜いて真樹にもたれかかって来た。  久々の律の温もりと重みが心地良い……  こんな他愛のないやり取りが幸せで、傍にいてくれるだけで癒される……  静かな部屋に微かに律と自分の呼吸音だけが聞こえる中、瞳を閉じた真樹はあっという間に夢の中に堕ちていった――…… ***

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