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ため息の花束 第52話(村雨真樹)

 真樹は、そっと鍵を回した。  音をたてないように扉を開ける。  薄暗い廊下を抜けてもう一つ扉を開けると、微かにテレビの音がした。  パチッと部屋の灯りをつける。  テレビから流れる深夜の生活情報番組を子守歌代わりに、ソファーに横になって眠っているその人の頭をそっと撫でた。 「ぁ……真樹さん、お帰りなさい」  目を擦りながら起き上がった律の額に軽く口付ける。 「ただいま、律さん。すみません、遅くなりました」 「遅くまでお疲れ様です!……えっと……」  真樹が笑いかけると律もふわっと笑い、少し照れながら真樹に抱きついてきた――…… ***  ――あの日以来、律が真樹の家に来るようになった。  真樹が仕事から帰ると、晩御飯を温めてくれて、お風呂の用意もしてくれる。  真樹が食べている時に少しだけ話して、真樹がお風呂に入っている間に、洗濯物を持って帰ってしまう。  どうせなら泊まっていって、朝方一緒に出ればいいのにと思うが、律が泊まったのは最初の日だけだった。  律が真樹の家に来るのは、真樹が風邪をひいて寝込んだ時以来だ。  1DKの真樹の家は、律の家に比べると断然狭いし、ベッドも二人で寝ると少し窮屈だ。  律は真樹の家だと落ち着かないのかもしれない……  とはいえ、深夜に律を一人で帰らせるのは心配だ。  そんなわけで、結局真樹が折れた。  今はまた半同棲状態に戻って、仕事が終わると律の家に帰っている。  帰りが遅いので、待たずに寝てくれていいと言ってあるが、こうやってソファーで仮眠を取りながら待っていてくれる。  そして、律なりのご褒美なのか、真樹が帰って来るとぎゅっと抱きしめてくれる。  律から抱きしめてくれるのは嬉しいし、癒される。    ただ……律はそんなにハグサービスをしてくれるようになった一方で、なぜか一緒に寝るのは拒むようになった。  律の家に帰って来るようになってから、足をケガしている真樹は律のベッドで、律は3階のマリアの隣の部屋で、別々に寝ている。  なんでこんなことになったんだ?  これ、俺が律さんのところに帰って来る意味がなくない?  一緒に寝ると疲れが取れないだろうからと言う事らしいが、絶対それだけじゃない気がする……  あの日、疲労ピークのところに律さんが来てくれたので安心して思わず抱きしめたまま寝落ちしてしまっていた。  もしかして、その時に寝惚けて俺またやらかしたのか……?    律がどうしてそんなことを言い出したのか気にはなったが、真樹も仕事で疲れてしまって精神的にも体力的にも落ち着いて話をする余裕がなかったので、とりあえず律の言う通りにしていた。  でも……今日は週末だ。  明日は休みだし、何が何でも律さんと話をしなきゃ!!  真樹は晩御飯を温めてくれている律の後ろ姿を眺めながら、ちょっと伸びをして気合を入れ直した――…… ***

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