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ため息の花束 第53話(村雨真樹)

「いただきます!」 「どうぞ、召し上がれ」  真樹はいくら遅くなっても会社では適当に栄養補助食品や栄養ドリンクで小腹を満たしているだけだ。  帰宅して食べる律の御飯が真樹にとっての晩御飯になる。  とはいえ、夜中なのであまりガッツリは食べられない。  そこら辺は、律がちゃんと考えてくれて、消化に良い物や野菜中心のメニューで作ってくれている。  あ~もうマジ天使!  なのに、俺がその天使の顔を曇らせているわけで…… *** 「律さん、体調は大丈夫ですか?」 「え?わたしですか?」 「俺に付き合って夜中まで起きてるから……日中キツくないですか?」 「わたしは大丈夫ですよ~。だって真樹さんとマリアを送り出してから、ちょっと仮眠取ってますから!」 「それならいいですけど……本当に、無理はしないでくださいね?晩御飯温めるくらいは自分で出来ますし、お風呂も自分でしますから……」 「……わかってますよ。真樹さんが自分で何でもできるのは知ってます。でも、わたしがしたいんです。これはわたしがやりたくてやってるだけだから、気にしないでください」    律が少し困ったような顔で笑う。  う~ん…… 「律さん、ちょっと来て?」    真樹は御飯を食べ終わると、律を引っ張ってソファーに移動した。 「え、どうしたんですか?」 「すみません、足が痛いのでちょっと伸ばさせてください」 「あっ、マッサージしましょうか?」  いつも風呂上りや寝る前に律がマッサージをしてくれる。  絶妙な力加減なので、めちゃくちゃ気持ちイイのだが……それをされると眠くなってしまうので…… 「ん~今はいいです。それよりも……俺今度は何やらかしたの?」  ギブスを巻いた足をソファーに投げ出し、律を抱き寄せる。 「……え?」 「もう毎度のことで本当に申し訳ないんだけど、この間律さんがうちに来てくれて俺が寝落ちした時のこと、俺全然記憶にないんですよ。でも、絶対俺なんかやらかしたんでしょ?」 「……え、あの真樹さん?一体何の話を……」 「だって、律さん、あれから一緒に寝るの嫌がるし、なんか様子おかしいし……あ、もしかして俺この足で律さん蹴ったとか!?」  ギブスを巻いた足は時に凶器になる…… 「あ……あああのっ、それは違いますっ!!本当に違うんですっ!!あの、真樹さんに何かされたとかじゃなくてですね!?わたしが自分の鈍感さに呆れたというか、ようやく気付いたと言うか……もっと早く気付くべきだったのに、自分のことばっかりで……本当にごめんなさいっ!!」  真樹と向かい合って座っていた律が、しょんぼり項垂れた。  だが、真樹にはまだ律が一体何を言っているのかわからない。    何に気付いたって? 「ん?いやいや、待って!?どういうことですか?」 「だから……その……真樹さん、わたしと寝ると熟睡できないんでしょ?それなのに、わたし自分が真樹さんと一緒だと安心して熟睡できるからって、ずっと一緒に寝て貰って……」 「え?俺も律さんと一緒の方が熟睡できますよ?」 「……いやいやいや、それはないです!!だって、真樹さんわたしと寝てると、わたしがちょっと起き上がっただけですぐに目を覚ますのに、あの時は服を着替えさせても全然起きなかったし……ちょっと考えればわかることだったのに、わたし本当に鈍くて――……」 「律さん!!りーつーさんっ!!ちょっとストップ!!」 「え……?あ、はい……」  真樹は、ちょっと興奮気味の律を抱きしめてひとまず落ち着かせた。  なるほど、どうやら俺はまた失敗したらしい……    う~ん……と唸りながら、頭の中で話を整理する。 「ねぇ、律さん。ちょっと聞いてくれる?」 「はい……?」  真樹はわがままを言ったり、自分の気持ちを口に出すのが苦手だ。  年の離れた妹がいたので、自然と我慢をするクセがついていたし、家族を亡くして伯母の家にひきとられてからは余計に……いくら伯母家族に優しくされても、やはり自分の感情をあまり表に出すことはなかった。    そんな真樹がわがままを言ったり甘えたりできるのは、先輩と律だけだ。   「――これでも、俺なりに律さんには気持ちを伝えようと頑張ってるんですけどね。……でも、律さんのことを考えているつもりが、結局うまく伝えられてなくて不安にさせてしまって……ちゃんと話しておけば良かったのにってことばかりで……言葉が足りてなくて本当にすみません」 「えっ!?なんで真樹さんが謝るんですか!!」 「律さんに誤解させちゃった俺が悪いからですよ」 「誤解って……」 「うん、とりあえず、一つずつ誤解を解いていきましょうか。まずは――」    真樹は、困惑している律に微笑みかけると話を続けた―― ***

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