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ため息の花束 第55話(春海律)※

「え……真樹さん?」  さっきまで律が見下ろしていたはずなのに、気がついたら真樹に見下ろされていた。    あれ?なんで?え……と……  何が起きたのかわからなくてキョトンとする律に、真樹がふっと笑いかけた。  その顔がやけに色っぽくて一瞬魅入ってしまった。   「あ……の……まさ……っん」  気がつくと真樹の顔が近付いていて、口唇が重なっていた。  律の口唇に重なっていた真樹の口唇が軽くリップ音を立てて離れる。  真樹が閉じていた瞼をゆっくりと開きながら律を見て微笑んだ。  え、待って、ちょっと待って!?  何でいきなりこんなことになってるの!?  それに、真樹さんなんか雰囲気が…… 「っ……ん……はっ……まさっ……きさん」  真樹の口唇が耳元から首筋に滑って行く。    わたし、さっきまで真樹さんと……あれ?何の話してたんだっけ…… 「ぁん、っ待っ……んんっ」  真樹に最後まで抱かれたのは一度きりで、その後はキスまでしかしていない……  律の身体のことを考えて我慢してくれている真樹に、店は休めるから我慢しなくてもいいと話したのはいつだったのか……  そんな話をした後も、真樹はすぐには手を出して来なくて……  マリア達が来てからはずっとごたごたしていたし、落ち着いてからもマリアが3階にいるので何となく真樹とのコミュニケーションはハグと軽めのキスだけになっていた。  ここまで濃厚なキスや愛撫は久しぶりなので戸惑ってしまう。    っていうか、待って!?この感じって……もしかして……するのかな……?   「り~つ?何考えてんの?」 「ふぇっ!?」  頭の中が大パニックでなんだかごちゃごちゃ考えていた律は真樹に鼻を軽くつままれて我に返った。    あれ、今名前…… 「こら、集中~!ちゃんと俺を見て。ね?」  真樹が両手で頬を包み込んで額をぴったりくっつけてきた。 「あ……はぃ……っ」  真樹の雰囲気がさっきから……いつもと違い過ぎて……直視できないっ!  前に抱かれた時もこんな感じだっけ?  いや、あの時はここまでじゃなかった……と思う……  ……何なんですか真樹さんのその色気は!?    こういうことに疎い律でも感じるくらい真樹の仕草がいちいちエロい。 「あの……むむむ村雨さん!?えと、その……す、するんですか!?」  お風呂は入ったけれど、こうなるとは全然予想してなかったから、そういう準備は……できてないんですけどぉおおお!? 「あの、待って、村雨さん……わたし準備が……っぁ……んんっ」  真樹の指が脇腹をすっと撫でて下におりていく。   「はっ……ん……」  どうしよう……気持ちいい……  真樹のキスが……指の這う感触が……  頭が蕩けて何も考えられなくなる…… 「むらさめ……さ……っ」 「律さん、名前……呼んで」 「……ん、っ」  真樹が耳元で囁いてきた。  くすぐったくて……真樹の吐息で耳が熱い。    名前……?あれ、わたし呼んでなかったっけ……? 「ま……まさきさ、んっ」 「ん、ありがと」 「……ぇ……」  真樹が嬉しそうにクシャっと満面の笑みを見せ、ポスっと律の首元に顔を埋めると、動かなくなった。  あれ……これもしかして……デジャヴ…… 「真樹さん……?」 「……ん……ごめん、げん……かい……」  あ、やっぱり…… 「ふふ……おやすみなさい」  律が真樹の背中に手を回してギュっと抱きしめると、すぐに律の耳元に真樹の寝息が聞こえてきた。  思わずクスッと笑ってしまう。 「疲れてるのに無理させちゃってごめんなさい……」  真樹は眠そうにしていたのに、律がどうしても気になってしまって話を続けてしまったから……  真樹さんを癒したいのに、わたしが無理させてどうするの!!  あ~もう……ホント何やってんだろうわたし……  っていうか、一体どこで真樹のスイッチが入ったのかわからない……  急にそういう……えっちなことがしたくなったのかな……こんなに疲れてるのに?    あ、そういえば男の人は疲れてるとシたくなるんだっけ?いや、わたしも男だけど……  律は自分が性欲が少ないせいか、疲れた時でもそういう経験をしたことがない。  生理現象らしいけど……  真樹さんも疲れてるとシたくなるのかなぁ……  え、でも今めちゃくちゃ途中で終わったけど……いいのかな?  何となく視線を下に向ける。  ん……えっ!?  チラッと見て、視線を戻しかけ今度は思いっきり下を向いた。  え~と……え、真樹さん……おっ……きくなってませんか……?  さっきの感じだと、その気だったっぽいし……おっきくなってても不思議じゃないんだけど……でもこのままで苦しくないのかなぁ……  眠っている真樹の顔は……なんだか幸せそうだけど……  わたしが代わりに……ぬ……抜いて……え、でも寝てる時に勝手に触ったら……セクハラになる?  待って、そもそも抜くってどうやるの?手?手だよね……  いやいや、一旦落ち着こう!?そもそも、自慰行為自体まともにしたことないのに、いきなり他人のなんてできる!?  よし、調べようっ!!  律はそっと真樹から離れると、自分の携帯を取った。    え、手……口!?え、口……って、あ~……フェ〇ってやつですね。うん。知ってる!!したことはないけど!!え~と……口に咥っ……え、真樹さんのを?アレを?……無理ぃいいいいいいいっ!!!  思わず正座をして調べていた律だったが、自分の中に挿入(はい)っていた時の真樹の感触を思い出して、それを口に咥えるところを想像したところで脳がオーバーヒートしてベッドに突っ伏した。    ごめんなさい真樹さんっ!!口はハードル高すぎますぅうう!!!  ダメな恋人でごめんなさいぃいいい……っっ!! 「ひぃ~ん……っ」  羞恥心と情けなさで泣けてきた…… 「ん~?……律さん、どしたの?」  突っ伏して泣いていると、真樹にポンと頭を撫でられた。  真樹さん起こしちゃった!!  隣でこれだけ大騒ぎしてたらそりゃ起きちゃうよね……  あ~もう!!だからわたしは一体何がしたいのぉおおお!? 「っ真樹さぁああん……ごめんなさいぃい~」 「えっ!?な、何が!?どうしたの?何で泣いてるの!?」  律が泣いていることに気づいて、真樹がガバッと上半身を起こした。 「わたし……わたし、ダメダメでごめんなさいぃい~……っ」 「ええ!?何でダメダメ!?何があったの!?」  言えません……真樹さんにセクハラしようとして自滅したなんて……    理由を言えずにひたすら泣いている律を前に、真樹がちょっと困ったような顔で首の後ろを掻きながらフワッと笑った。 「律さん、おいで。どうしたの?何か怖い夢でも見た?」 「違っ……ひっく……ごめんなさっ……起こしちゃって……っ」 「ん~?大丈夫だよ、大丈夫」  結局律は真樹に抱きしめられ、大丈夫だよとあやされながら、泣き疲れてそのまま眠りについた――…… *** 『教訓:慣れないことはするもんじゃない……by 春海』

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