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ため息の花束 第57話(春海律)
よし、そろそろ店開けようかな……
律が店の看板を出そうとした時、ガチャッと2階へと続く扉が開いた。
「あ、おはようございます!早いですね。あ、今、朝食用意しますね!」
「おはようございます。朝食、置いてくれてたから食べましたよ。ご馳走様でした」
「え、もうですか?」
律が店に下りてきてからまだ1時間程だ。
真樹はもうすっかり身支度を整えていた。
お仕事お休みなんだからもう少しゆっくり寝ててもいいのに……
真樹さん……どこか出掛けるのかな……?
「まだ店開けてないですよね?」
「え?あ、はい。今から開けようかと……」
「良かった、じゃあ、ちょっと開けるの待って下さい」
「へ?」
「ちょっと上に来て。あ、戸締りはしておいてくださいね」
「あ、は、はい!」
なんだろう?
真樹に呼ばれる理由がわからず、とりあえず戸締りをして2階に上がった。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「ちょっとこっち来て下さい」
律の部屋から声がしたので中を覗くと、真樹がベッドに腰かけていた。
あ、足が痛いのかな?
「マッサージします?昨日してないですよね」
「あ~、いや、それは大丈夫。それより……」
「えっ!?」
真樹に腕を掴まれたと思ったら、グイッと抱き寄せられていた。
「昨日の続きしましょうか」
「き……昨日の続き!?」
え、どういうことですか!?続きって、あの……もしかして……
「昨日俺、眠すぎて途中からほとんど覚えてないんですけど……とりあえず、え~と……」
「ああああの!!えっと昨日の話なら、もう終わりましたよ!?」
「……え?」
「えっと、だから、また真樹さんと一緒に寝させてもらうってことで話はもう……」
「……その後は?」
「……その後?」
「寝る直前、律さん何か言ってたでしょ?」
「あ~……いえ、あれはその……あれももう大丈夫です!!」
むしろもうそのことは忘れたままにしておいてくださいぃいいい!!!
「り~つ~さん?何か隠してるでしょ~?」
「……ぇ?べべべつに!?」
訝しげに見つめて来る真樹の視線に耐えられず、フイッと顔を逸らしてしまった。
「こら、ちゃんとこっち見て!何の話してたの!?」
真樹に両頬を挟まれたけれど、目を合わせて話せるはずがない。
「あ~えと、ななな何だったかな~……わわわ私も眠かったので、覚えてな……」
「覚えてないなら、もう大丈夫なんて言えないでしょ?ほら、目を逸らさない!!」
「あぅ~……」
「俺には言えないこと?」
言えないことですよぉおおおお!!!!セクハラしようとしてたなんて知られたら嫌われちゃうぅううううう!!!!
「わかりました。俺に言いたくないなら言わなくてもいいです」
「え……あの……」
真樹が律の両頬からパッと手を離した。
怒っちゃった……?
「真樹さ……」
「すみません、本当は覚えてるんですけどね」
「え……」
覚えてるの!?じゃあ……わかってて……
「律さん……あの――」
覚えてるなら……早く謝らなきゃっ!!
「セクハラしようとしてごめんなさいぃいい!!!」
「ハロウィンのことは忘れませんからね!?」
「……え?」
「……え?」
思わず顔を見合わせる。
同時に喋ったので言葉が混じってしまったが、最初の言葉は聞き取れた。
「え、ハロウィン?」
「え、セクハラ?」
これは……もしかしなくても……わたしは墓穴を掘ったのではないでしょうか……
思わず頬が引きつって、なんだか嫌な汗が背中を流れていった気がした。
「あの……えっと……は、ハロウィンですね!はい、わたしもその話を……」
「いやいや、一文字も合ってないですよ!?」
「あははは……え~と……キキマチガイデスヨ~!」
「り~つ~さん?」
ぅわあぁあん……どうしよう……誤魔化しがきかないぃいいい!!!
「コホンッ!……そう、それで、ハロウィンがどうしたんですか!?」
内心の動揺が顔にも出てしまっていたけれど、咳払いをして無理やり真樹に話を振ってみた。
真樹は、訝しげに律を見ると、頬を膨らませてちょっと口唇を尖らせた。
「もぉ~!後でちゃんと話してくださいよ!?……え~と、俺のは……ハロウィンの時のことですけど、あれは、俺の戒めみたいなものだから、律さんに何と言われようと忘れることはないですよっていう――……」
「え?」
「昨日、律さんがハロウィンの時のことはもう忘れてくれって言ってたでしょ……?」
「だって……わたしは本当にもう……あの時のことなんて何とも……っていうか、むしろ忘れてたくらいで……だから、襲われた側のわたしが忘れてるんだから、真樹さんももう忘れてくださいっ!!」
「そういう問題じゃないんですよ。律さんが忘れてるからいいってことじゃないんです。いや、律さんが忘れてくれてるのはいいんですけど、でも俺がまたああいうことをしないために――……」
「してもいいんですよ!!」
「……え?」
真樹がポカンとした顔で律を見た。
ん?わたし何言ってるの?
「え、あ、いや、あの……えと……だから、自制しなくていいんですってば!!あの、わたしは真樹さんに抱かれるのは別に……」
「昨日あんな顔してたくせに?」
「……顔?」
「俺に押し倒されたら泣きそうになってたじゃないですか」
そんなことまで覚えてるんですかっ!?
確かに、びっくりしてちょっと涙目にはなってたけど……
「あれはその……久しぶりだったから……びっくりして……後、じゅ……準備とか出来てなかったから……」
「律さん、理性がぶっ飛んで襲いかかるのに「今から襲いますので準備してきてください」なんて言うやついませんよ?っていうか、そんなこと言う余裕があるなら、ちゃんと優しく抱きますし」
真樹に真顔で諭された。
はい、ごもっともです……
「そうだけど……でも……本当に嫌なわけじゃなくて……」
「……うん」
「わたし……真樹さんには……少しくらい強引にされてもいいんですよ……」
「……ん?」
「そうだっ!きっとこういうことに免疫がないから、急に押し倒されるとパニックになっちゃうんですよ!!だから、もっとその……免疫をつけるためにですね、また……わたしを襲ってください!!」
「……え?」
「あ……」
ちっがぁああああああああう!!!
勢い余って何だかいろいろすっ飛ばした!!
ほらぁあああ!!!真樹さんがポカンとしてるぅううう!!!
律は自分の顔が一気に熱くなるのを感じた。
「あの……え~と……ごめんなさい!!ちょっと頭冷やしてきますぅううううううううう!!!!!」
羞恥心が極 まって泣いてしまいそうになったので、真樹をドンっと突き飛ばして、部屋から飛び出した――……
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