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ため息の花束 第58話(村雨真樹)

「……え?」  律に突き飛ばされてベッドに倒れこんだ真樹は、そのまましばらく天井を見つめていた。  今……律さん何て言った?  襲って下さい?抱いてじゃなくて?言い間違い?いや、言い間違いだろ、どう考えても。  いや、そりゃね?前から自制しなくていい、とか、また抱いていい、とか、そういうことは言ってくれてたよ?  でも、昨日試しに押し倒したら……やっぱり律さんは軽くパニックになってたし、ちょっと怯えて困った顔してたし……俺のことまた村雨って名字で呼んでたし……  律さんが一生懸命俺に合わせてくれようとしてるのはわかってるけど、あんな顔するくらいなら軽々しく自制しなくていいとか言わないで欲しい……俺だって抱きたいのを我慢して、ハグやキスが出来ればいいやって自分自身に言い聞かせて……  あぁ、そうか……これがダメなのか…… 「って、呆けてる場合じゃない!!律さんどこ行った!?」  ガバッと起き上がると、部屋から出た。  2階には律の姿は見当たらない。  店……は違うな。あんな状態で店に出るはずがない。  となると……  真樹は3階に上がって、マリアが使っている部屋の隣の部屋を覗いた。  やっぱり……   「律さん」  部屋の隅で律が布団を被って丸くなっていた。  真樹の声に、律が慌てて布団から手を出し制止しようとする。 「っ!?ああああの、待って!!今来ないでっ!!!ちょっと今頭を冷やして――」 「待たないっ!」  布団をむんずと掴んで引きはがす。  膝を抱えて座る律が両手で顔を覆った。 「やだぁあああっ……」 「んんっ!?」  やだって何!?  そんなに嫌がられると、なんか俺めちゃくちゃひどいことしようとしてるみたいなんですけど……  一瞬怯んだが、ちょっと自分に気合を入れて律の前に座った。 「やだじゃないっ!律さん、こっち向いて?」 「無理ぃいいいい!!!」 「律さんってば!……律っ!」 「……え?」  呼び捨てにされてびっくりしたのか、律が真樹を見た。  やばい、呼び捨てにするつもりはなかったんだけど……律さん怒ったかな……    内心ドキドキしながら、気付いていないフリをして話を続けた。 「律さん、言い逃げは良くないと思います!」 「い……言い逃げっていうか……あれはその……言い間違いっていうか……」 「何と言い間違えたの?」 「え?……えと……だから……」 「うん」 「……わたし、病院行った方がいいですか?」 「……え?」  予想外の言葉に一瞬固まった。    病院? 「え、病院って、律さん、どこか具合悪いの!?」 「違っ、そうじゃなくて……その……わたし性欲が……少ないから……どこかおかしいのかなって……」 「んん?」  性欲?なんで?だって、それは…… 「律さんの性欲が少ないのは前からなんでしょ?」 「そうですけど……」 「じゃあ、なんで急にそんなこと……」 「だって――」 ***

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