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ため息の花束 第60話(春海律)
まさか……こんなことになるとは……
いや、そりゃね……また真樹 さんに抱いて欲しいと思ってたわけだし?
我慢しなくていいっていうか、もう襲って欲しいとまで言っちゃったのはわたしなわけですよおぉおお!!
だけど……朝……まだ朝だよ!?明るいよ!?こここんな時間から……そんなことしちゃっていいの!?
確かに、夜だとマリアがいるから……気になってそんな雰囲気になれないけど……でも、カーテン閉めても、電気消しても明るいんですけどぉおおおおお!!!
常夜灯でも恥ずかしかったのに、この明るさの中でわたし……羞恥心に耐えられるのかな……
いや、耐えられるのかなじゃないっ!!耐えるんだっ!!頑張れわたしっ!!じゃないと……
抱かれるのが嫌なわけじゃない。
真樹がその気になってくれたのは嬉しい。
だけど、前回にしても今回にしても、自分のあまりにも勢い任せの無計画な言動にため息しか出ない……
毎回それに振り回されている真樹にしてみれば、たまったものじゃないと思う。
それでも、真樹はちゃんと律 に向き合ってくれる……
***
準備を済ませた律が恐る恐る部屋に入ると、真樹がベッドの上で携帯を弄っていた。
「あれ、服着ちゃったんですか?」
「えっ!?あ、あの……き、着ない方がいいんですか!?」
前回も服を着ていたし、何となく着てしまったけど……こういう時は裸のままの方がいいの!?
「いや、どっちでもいいですけど……」
「あ……そう……ですか」
「律さん、こっち来て?」
「は、はいっ!!」
どっちでもいい……か。
別に同性の身体を見た所で興奮するわけじゃないんだし……どうでもいいよね、そんなこと……何聞いてんだろうわたし……やっぱり服着ておいて良かった……
ベッドの端に腰かけると、真樹にベッドの上に引っ張り上げられた。
「どうせ裸になるからそのままでも良かったのにと思って……でも脱がすのも愉しいのでどっちでもいいですよ?俺は脱がしていくの好きだし」
そう言うと、律のうなじに顔を埋めてきた。
「っん……あ、そういう……」
そういう意味だったんですか……
ちょっとホッとした。
「どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないです!ちょっと、あの……勘違い……」
「ん?」
「あ、大丈夫ですっ!もう解決したので!」
「そうですか……律さん、こっち向いて?」
「え?」
「後ろから抱きつくのも好きなんですけど、今は前からがいい」
「ま、前ですか!?」
真樹が一旦離れて、両手を広げた。
「あ……えと……しし失礼しますっ!」
目を伏せたまま、真樹に抱きつく。
何だかんだで、しょっちゅう抱きついているはずなのに……なんでこんなに緊張してるんだろう……
真樹がクスッと笑った気がした。
「律さん、緊張しすぎですよ」
「だ……だって……」
緊張しちゃうんだもの……
「大丈夫だから……言ったでしょ?俺今は理性あるから待てるし、止められるって。律さんが嫌なら無理やりはしないから、そんなに緊張しなくていいですよ」
「い、嫌じゃないんですけど……きき緊張しないのは無理ですぅ~!!……でもあの……ホントに本当に嫌じゃないですからっ!!」
「っ……はい、わかりました」
真樹が苦笑しながら律の背中をトントンと撫でた。
律が緊張しまくるせいで、いつからか真樹がこうやって律の緊張を解してくれるようになった。
真樹の腕の中は安心する。
この腕の温もりはもう十分に知っているのに、それでも毎回緊張してしまう自分が嫌だ……
「ごめんなさい……」
「え?何が?って、どうしたんですか!何で泣いてるのっ!?あ、えっと……やっぱり止めときます?」
真樹がパッと両手を上に挙げた。
「違っ!……毎回真樹さんにお手数おかけしてしまって……あの……」
「あぁ、これのこと?」
真樹がちょっと眉を上げて、背中を撫でながら笑った。
「もう慣れましたよ。それに俺は結構この時間も好きなんで大丈夫です」
「ぅ~……」
「ねぇ律さん?」
「はい?」
「抱かせてって言ったのは俺だし、律さんをそんなに追いつめちゃたのも俺なんですけど……律さんはぶっちゃけ、えっちしたいの?」
「……え?」
真樹に言われている意味がわからなくてちょっと固まってしまった。
ついでに涙も引っ込んだ。
えっち……したいの?って……どういう意味なんだろう……
真樹さんはしたくないってことなのかな……わたしが不安がってるから抱くって言っただけ?
「性欲が少ないのは仕方ないんだし、律さんが俺のこと好きなのはちゃんとわかってるし、そんなに普通を気にしなくていいと思うけど……っていうか、普通がどんなのか俺だってわかんないし……まぁ、俺は好きだからえっちしたいって思うわけだけど、律さんはえっちしたくないのに無理して抱かれても気持ち良くないでしょ?男同士なんだから別に子作りが目的とかじゃないし、お互い気持ち良くなるためにするようなものなんだから、えっちにこだわることないと思うよ?」
真樹がちょっと早口で捲し立てた。
え……と……?
「でもわたしも真樹さんが好きだし……性欲はそんなにないけど、触っては欲しいし……それにえっち自体は気持ちいいですよ?前にシた時も気持ち良かったし……」
「そう?……そっか」
真樹がちょっと考えるように手を止めた。
「あの……でも、真樹さんが抱きたくないなら無理にとは――」
「俺は抱きたいですよ?いつだって、押し倒したいし、キスしたいです」
食い気味の返事にちょっと戸惑う。
「あ……はい」
「ただ、律さんがシたくないのに無理してるなら、最後までシなくても、触るだけでもいいかなって思って。その方が律さんの負担も少ないし……どうですか?」
どどどどうですか?
え、触るだけ?
「あの、それって一体どういう……」
「だから……」
「え?……あの、真樹さ……っ……んっ」
真樹の言いたいことがわからなくて律が真樹の顔を覗き込んだ瞬間、口唇が重なってきた。
不意打ちに少し驚いたけれど、キスをしながら頬や耳を撫でてくれる指が優しくて、気がついたら真樹の首に腕を回していた。
あんなに緊張していたはずなのに、真樹さんと会話しているうちに緊張なんてどこかにいっちゃってた……もしかして、さっきの会話って、わたしの緊張を解すためだったのかな……
***
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