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ため息の花束 第62話(村雨真樹)※
真樹にしがみついていた律の身体からスッと力が抜けた。
「お……っと……」
ずり落ちる身体を受け止めて、ベッドにそっと寝かせる。
紅潮した頬と、少し開いた口元が、やけに艶めかしい。
少し汗ばんだ腹部に、律の吐き出した白濁の熱が飛び散っていた。
真樹は、そんな律を見ながら、まだ萎えていない自分の昂りをしごいた。
「はっ……っ……」
片手で律の肌に触れる。
真樹の指が律の胸の突起を掠ると、律が少しピクリとする。
ふ、可愛い……
「……っ!」
扇情的な律の腹部に自分の欲望を吐き出すと、大きく息を吐いた。
本当は、抱こうと思っていた。
せっかく律も準備してきてくれたんだし、本人がいいって言ってるんだし。
ただ、律が真樹の心を繋ぎとめたいというだけの理由でこの行為を承知したのなら……
律にそう思わせている自分がなんだか情けなくて悔しくて……
だって……それだと身体が目的みたいじゃないか……
好きだから抱きたいという感情は、律にはわからないのだから仕方ない……
それはわかってるけど……
だったら別に最後までしなくても……
っていうか、手だけでもここまで感じてくれたら俺的には満足です。
これでも律さんの押し殺した喘ぎ声は聞けるし……快感に慣れてない律さんの不安そうな顔が蕩けていくところもそそられる。
前に抱いた時はやっぱり無理してる感じがあったからな……こっちの方が律さんも気持ち良さそうだし、負担も少ないだろうからこれならあまり翌日に響かないはず。
あ、そうだ……
前回は終わった後、眠ってしまった律をお風呂に入れて全身キレイに洗ってあげたのだが……残念ながら今は律を抱き上げることができない……
足が治ってからにしたかった理由はこれだ。
まぁ、今回は後ろは使ってないから……
とりあえず濡れタオルでも……
真樹がベッドからおりようとすると、ぐっと腕を掴まれた。
「あ、律さん、目が覚めました?ちょっと待ってね、タオル持ってくるから」
「……シないんですか?」
律が気だるげに真樹を見上げて来る。
「え?」
「え、まだ……あの……挿れてないですよね……?」
「あぁ……え~と……」
まさか、律から先を促されるとは思ってなかったので、ちょっと焦った。
自分の頬をポリポリとかきながら、どう話すか考える。
「あれ?え、もしかしてもう終わってます?ごめんなさい!わたし全然覚えてなくて……っ」
「あ、違いますっ!いや、そうじゃなくて……あ~……いや、うん、そうですね、もう終わりましたよ?」
終わってると思ったならその方がいいか……
真樹がごまかすと、ジーっと真樹を見ていた律がガバッと起き上がった。
「……って、真樹さん?そんなわけないでしょう!?いくらわたしが鈍いからって、自分の身体なんだから、は……挿入 ってたかどうかくらい……わかりますよ!?一応……け、経験してるんだからっ!!」
「わっ!……ぁ、はい……」
急に律が目の前に来たので、その勢いに押されて思わずのけ反った。
はは、そりゃそうですよね。
「なんでごまかすんですかっ!?」
「え?いや、ごまかしたっていうか……終わったのは本当だし。律さんもイったでしょ?」
「イっ!?……あ、えと……だってそれは……真樹さんが……さ、触るから……」
「うん、善 かった?」
「よ……かったですよ?」
さっきまでの勢いはどこへやら……
律が真っ赤になってちょっと視線を泳がせた。
「そか」
真樹が笑いかけると、律が更に視線を泳がせた。
「あの……えっと、そうじゃなくて……でもあの……」
「……あのね、律さん。触るだけでもいいんですよ」
「……え?」
「準備してもらったのに申し訳ないけど、俺は別に最後までシなくても……」
「……それは……男だから?」
「うん、別に抜きあいだけでも気持ちいいし……って、律さん!?」
俯いていた律の手元にポタポタと水滴が落ちているのを見て慌てて律の顔を覗き込むと、律の瞳から大粒の涙が零れていた。
え、俺のせい!?律さんが泣くようなこと何か言った!?
「わたしが男だからっ……抱きたくないのなら……そう言ってくれればいいじゃないですかぁ……っ……おそ……くない……って……っ……お、男なんか襲いたくないって……ことなら……そう言ってくれたら……っ」
「ちょ、え?待って待って、違いますよっ!?そうじゃなくて……」
「違わない!!」
「抱きたくないなんて言ってないでしょ!?俺は抱きたいってずっと言ってる!!」
「でも抱いてない!!」
「抱い……てないけど、それはだから……あ~もぅっ!!」
なんでこうなるかなぁ……
思わずちょっと天を仰いだ。
「も……っいい……ごめ……っんなさい……シャワー浴びてきます……」
「ちょっと待って!!」
「っや、触らないでっ!!」
「……っ」
パシッと律に手を振り払われて、思わずカッとなった。
律の手首を掴んで乱暴にベッドに押し倒す。
「っ!?痛っ……やだっ!離し……っんん……」
自分の意思で律に無理やりキスをするのは初めてだった……
初めは少し抵抗したものの、真樹が優しく口唇を重ねると、律が徐々に体の力を抜いてきた。
きっかけは少し強引だったが、律にひどいことをしたいわけではないので、乱暴にしてしまった分、優しく濃厚で甘いキスをした。
「……ん、ふっ……ぁっ」
真樹が口唇を離すと、律がとろんとしながら目を開けた。
「律さん……あのね、お願いだからちょっと俺の話聞いて?最後までしないのは、抱きたくないんじゃない。そうじゃなくてね、その……恋人同士の触れ合いっていうか、まぁ、そういうのは、挿れるのばかりじゃなくて、さっきしたみたいに手で触りあいっこするだけでも気持ち良くなれるってことを言いたかったわけで……」
「……ふぇ?」
律が真樹を焦点の合わない目で見つめてくる。
しまった!ちょっとやりすぎたか……
「律さん、大丈夫?」
「……ふぁぃ……」
「うん……え~と……ちょっと休憩しましょうか」
「ん……」
そう言うと、律が目を閉じて、スース―と寝息をたて始めた。
ん?……あれ、もしかして律さん……さっきのも寝惚けてたとか……?
そもそも律さんがあんな先を促すようなことを言うなんておかしいし……
あんなところで泣き出すのも変だし……
え、全部寝惚けてたの?いや、それはさすがに……いやいやいや……ねぇ?
あれが全部寝惚けてたんだとしたら……どんだけっ!?
律さぁん!!あれ全部だとしたら壮大過ぎるよぉおお!?
勘弁してよぉ~~……俺、律さんに触らないでって言われたのがショックで思わず乱暴に押し倒しちゃったし……
どうすんの!?
起きたら忘れてくれてるかな!?
全部夢って思ってくれる!?
って、律さん手首ちょっと赤いぃいいいいいいいいい!!!!!
俺のばかぁああああああああああ!!!!!!
ごめんなさああああああああい!!!!!
律がすやすや眠っている横で、真樹は両手で顔を覆って声なき声で叫んでいた――……
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