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ため息の花束 第71話(春海律)

 真樹(まさき)はマリアのいるリビングではなく、(りつ)の部屋に入って行った。  マリアには聞かれたくないのかな?っていうか、ため息って?  真樹が何を言おうとしているのか気になって、さっきまでちょっと泣きそうだったのに落ち着いてきた。    あれ?そういえば恋愛漫画(教科書)によれば、何でもない時のプレゼントって……何か裏があるんだっけ……!?  花を貰って無邪気に喜んでたけど、そんなに喜んでられない感じですか……?  律は真樹の後について入ると、花束を抱きしめたまま、恐る恐るベッドに腰かけた。 ***  真樹は律の隣に腰かけると、少しためらい気味に話し始めた。 「あのね、え~と……俺昔からため息吐くのがクセみたいになってて、ほら、雨の日がダメだったでしょ?だから、そういう時は憂鬱で――……」  真樹が雨の日になるとため息を吐いてしまうのは仕方ないと思う……  律だって、夜一人になると、祖父たちのことを思い出してはため息を吐いていたので、真樹の気持ちはよくわかる。 「で、今日先輩に『また、ため息吐いてるぞ』って言われたんです。でも……その時は俺、律さんのこと考えてたんですよね」 「わたし……ですか?」  自分の名前が出てきたので少し驚く。    わたしのことを考えていて……ため息?  わたし一体何したの!?  ため息吐かれるようなことなんて……あ~……心当たりがありすぎる!!! 「はい、それでね?考えてみたら、律さんと出会ってからは、ため息の種類が変わったなと思って」 「種類……ですか?」  ため息に種類とかありましたっけ? 「ん~……今までは、ネガティブなため息が多かったんですけど……俺、前にも言ったと思うけど、律さんに出会ってからは、少し時間に余裕が出来ると律さんのことばっかり考えてるんですよ」 「え?」  確かに以前、仕事中もわたしのことを考えていると言ってくれたことがあるけれど……  え~と……と、真樹が言葉を探すように少し上を見た。 「だから、最近は前みたいな憂鬱な気分になることが少なくて……どっちかっていうと、律さん今何してんのかな~とか、早く会いたいな~とか……そういうことを考えながらため息を吐いてることの方が多くて……」 「……へ?」 「同じため息でも、律さんを想って吐くため息だと思うと何だか嬉しくなって……そしたらちょうど花屋でその花を見つけて、律さんにプレゼントしたいなと思って…………って、うん……すみませんっ!!自分でも何言ってるのかわかんなくなってきましたっ!!とりあえず、あの……俺の中ではこれでも一応ちゃんと理由はあったんですけど……んん゛~~っ!!何かだんだん言い訳っぽくなってきましたよね……別にやましいことがあったからとかじゃなくてですね!?本当にただプレゼントしたいな~って……あ~もぅっ!俺説明下手ぁっ!」  真樹が一息に(まく)し立て、最終的にベッドに仰向けに倒れ込むと両手で顔を覆った。 「え~と……」  真樹さんにしては何だか説明がわかりにくいけれど……つまり……  鬱々としたため息だったのが、こ、的なため息に変わったってこと?  恋人同士なのにっておかしいか……こういうのは何て言うんだろう……  でも、そういえばわたしも……真樹さんのことを考えてため息を吐くことはよくあるかも……  煩わしいわけじゃなくて、何ていうか……好き過ぎて自分の気持ちを持て余してのため息っていう感じで……  え?好き過ぎて……って、じゃあ、真樹さんも!?  だんだん恥ずかしくなってきて、顔が熱くなってきたので、律も顔を両手で覆った。 ***  

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