80 / 89
羨望と嫉妬 第79話(村雨真樹)
「ところで、ここのマスター?と村雨先輩って一体どういう……」
昼前になってようやく起きてきた山野 が、今更なことを聞いてきた。
まぁ、昨日はそれどころじゃなかっただろうけど……
「あぁ、ここのマスターが俺の恋人だよ」
「へぇ~……キレイな人っスね」
「だろ?」
「先輩って面食いなんスね~……」
寝惚け眼の山野が、ぼ~っとしながら呟く。
どうやら律 のことを女性だと勘違いしているようだ。
まぁいいか……
「俺はもうちょっと胸がある方がいいっスね。顔ももちろんだけど、やっぱ胸は大きい方が……」
「おまえ、もしかして胸で相手選んでるのか?」
「え!?いや、そりゃやっぱ胸から見ちゃいますけど~……さゆりちゃんは胸だけじゃなくて顔も可愛いし、それに性格もいいし……俺の理想が詰まってんですよね~……」
まぁ……好きになるきっかけは人それぞれだから、山野みたいに胸から好きになっていくのもアリだとは思うけど……
「だったら別れなくても済むように心から頭を下げて謝ってこい」
「ふぁぁ~い……」
***
山野と熊田先輩は、しっかりと昼食も食べて昼過ぎに帰って行った。
律は店に出ているので、真樹は一人になった。
普段はこういう時は店に下りて行って、律を見ながら勉強をしているのだけれど……
「よし、寝るか」
昨夜は律を寝かしつけた後、そっとベッドを抜け出してとりあえず3階に布団を敷いて二人が眠れるようにした。
恐らく、真樹たちが話し合いをしている間に律が準備してくれていたのだろう。
部屋にはちゃんと二人分の布団が用意されていた。
二人を部屋に案内した後、店に下りて使用した食器を洗ったり掃除をしたりしているうちに、夜が明けた。
つまり、真樹は昨夜眠れていない。
律が起きる前に少しだけベッドで横になっただけだ。
あ~眠っ……
律のベッドに倒れ込む。
律の匂いが残る布団で深く息を吸い込んだ。
本当は律さんと寝たいけど、今は匂いだけで我慢っ!
明日のことを考えると、とても眠れるような状況ではないのだが、いくら考えたところでそんなものはなるようにしかならない。
ひとまず、経緯はわかったから後は何とか……する……だ……け――……
ため息と共に瞳を閉じると、そのまま眠りに引き込まれていった。
***
ともだちにシェアしよう!