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おともだち 第82話(村雨真樹)
「――そういうわけで、とりあえずここに友達連れて来てもらいますね。直接話聞いたほうが早いでしょ」
風呂上り、髪を乾かしながら律にマリアとの話し合いの結果を説明した。
「そうですね……いつ来るとかは……?」
「俺が休みの日に連れて来るように言ってありますよ。律さん一人じゃ大変でしょうから」
「すみません、ありがとうございます!」
少し不安そうだった律が、ほっとした顔をした。
客商売をしているし、店はよくご近所さんのパーティー会場にもなるので、大勢を相手にするのは慣れていそうだが、律は人見知りが激しい。
顔見知りなら何人集まっても大丈夫だが、初めて会う人間に一度に押し寄せられるとさすがにキツイだろうと思う。
「マリアの友達は今までここに来たことないんですか?」
「う~んと、何人かは店に連れて来ましたけど……うちみたいな喫茶店は若い子には落ち着かないんでしょうね。みんな居心地悪そうにしてました」
律がその時のことを思い出したのか、苦笑いをした。
確かに……『レインドロップ』は、昔ながらの喫茶店なので、落ち着いてコーヒーを愉しむ店という感じだ。
友達とぺちゃくちゃおしゃべりをしたいなら、ちょっと居心地悪く感じるかもしれない。
「若い子はあまりこういう店とは馴染みがないだけで、慣れてくれば大丈夫だと思いますけどね。学生のお客さんだっているんですし」
「そうですよね!何人くらい来るんでしょう……ご飯どうしようかなぁ……」
「あ~、それはまたマリアに聞いてみてください。ご飯は……来る時間帯にもよりますよねぇ……お菓子いっぱい用意しておけばいいんじゃないですか?」
「ええっ!?それはさすがに……お菓子だけってわけにはいかないでしょう!?」
真樹の言葉に、律が吹き出した。
「え~?でも大学生くらいだと、お菓子と酒だけでお腹いっぱいに……あ、そうだ、マリアのことですけどね?」
「え?――」
***
律がこんなにマリアのサークル参加について慎重になっているのは、恐らく飲み会が原因だと思う。
マリアは「大丈夫よ~!みんな良い人よ~!」と言っているけれど、基本的にマリアは人を疑うことをあまり知らない上、律のようにお酒の飲み方を教えられているわけでもないので、羽目を外しやすい飲み会では餌食にされやすい。
それがわかっているから、心配なのだ。
「そうなんです……あの子、日本人はみんな良い人、安心安全な国というイメージを持ってて……もちろん、ほとんどの人がそうなんですけど、でも日本人だって良い人ばかりじゃないでしょう?海外に暮らしているわりに、あまりにも警戒心がなくて心配なんです……」
「うん、それは俺も思います。それでね?律さん前に、20歳になった時にお爺さんや常連さんにお酒の飲み方とか教えて貰ったって言ってたでしょう?あれをマリアにもしてみるってのはどうですか?」
「え、マリアに?」
「マリアは亮介 さんに、律さんと結婚する条件としてコーヒーのことをいっぱい勉強することって言われてたんですよね?亮介さんはいろんな紅茶を取り扱っているし、マリアも子どもの頃からいろんな紅茶やコーヒーをテイスティングしてきたわけだから、舌は確かだと思うんですよね。だから、お酒の味もちゃんと教えればわかるんじゃないですか?」
「あぁ……そうですね!そうですよね!?なんで思いつかなかったんだろう……!!真樹さんさすがですっ!!」
律が瞳を輝かせながら、両手を胸の前でパンとあわせた。
いや、そんな顔して褒められる程の内容じゃないんですけど……可愛いなぁもうっ!!
「じゃあ、さっそく明日重 さんたちにお願いを……って、え?あの、真樹さん?」
「ん~?」
「あの、な、何を……」
「え?律さんを押し倒してますけど?」
「あ、そうですね……って、え……っと?」
真樹に押し倒されて、律が少し戸惑った顔をする。
昨夜から律が口にするのはマリアのことばかりなので、若干ヤキモチ。
マリアのことが心配なのはわかるけれど、たまの休みなんだからもう少し……イチャイチャしたい……!!
「マリアのことはひとまず置いといて、そろそろ俺のことも相手して欲しいんですけど……ね?」
「……ぁ……はぃ……っ」
律の顔が一気に赤くなって、視線が泳いだ。
相変わらずの反応に思わず苦笑すると、律がちょっとむっとした顔をする。
「むぅ~~!何がおかしいんですか!」
「いや、可愛いな~と思って」
「かっ……ぜ、絶対違いますよね……!?」
「え?ホントですよ?俺の律さんはいつも可愛いです」
真樹が笑うと、律は更に顔を赤くして困ったような微妙な顔をしながら枕に顔を埋めた。
「あ~も~……真樹さんずるぃ~……」
はっ!?ズルいのは律さんの方でしょ……そんなに首まで赤く染めて艶っぽい声出さないでよ……っ!!
あ~くそっ!明日仕事ぉおお!!!でもちょっとだけなら――……
***
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