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おともだち 第84話(春海律)

「よし、始めるぞ~!?」 「OK!いつでもいいよ!」  マリアと(しげ)ちゃん、(かん)ちゃん、(さん)ちゃんの常連トリオが向かい合って不敵に笑った。 「まずはコレだぁ!」 「ん~……入ってない!この香りはダージリンとアールグレイ!」 「んん~~~……正解!!」 「やったー!」  マリアは今日も常連トリオとお酒の味や匂いについて勉強し、他の飲み物に混ざっているかどうかを当てる練習をしている。  紅茶の茶葉の種類やコーヒーの豆の種類については、本当に(りつ)も驚くほど勉強している。  だから、そこにお酒が入った場合はすぐにわかるのだが、問題は…… 「じゃあ、次は~……コレだぁ!!」 「う~ん……入って~……る?」 「あ~……残念っ!!入ってません!!ただのぶどうの炭酸ジュースだよ」 「あれぇ~……?」  マリアは、炭酸ジュースが苦手だ。  炭酸ジュースは舌に刺激がある分、アルコールの有無が分かりにくいのかもしれない。   「マリアちゃん頑張れ~!」 「はーい!」  練習はマリアが帰宅してからなので夕方にしているのだが、もちろん店にはまだ他のお客さんも入っている。  常連トリオが紙コップと酒瓶をテーブルに並べ始めると、他のお客さんたちも何が始まるのかと興味津々で注目し始める。  律がこれから何をするのかを簡単に説明すると、他のお客さんも一緒になってマリアを応援してくれるので、ノリのいいマリアは今日もやる気満々だ。  ここ数日はマリアの練習を見るのが店のイベントになってしまっていた。 「次こそは~!!」 「よ~し、行くぞ~!」  常連トリオも、こういうイベント的なものは好きなので、みんなイキイキしている。    わたしの時って、こんなに賑やかだったっけ?  何にせよ、律にしても、店の中が活気づくのは嬉しい。  まぁ……うちも重ちゃんのところも売上にはならないけどね……  律が頼んだことなので、重ちゃんに酒代を払うと言ったのだが、重ちゃんは受け取ってくれなかった。  仕方がないので、律はお礼代わりにコーヒーのタダ券三ヶ月分を三人に渡した。  最初はそれもなかなか受け取ろうとしなかったが、店の酒を出してもらっているのだし、マリアの練習に付き合って貰っている以上は何か受け取って貰わないと心苦しいと言うと、渋々三人が折れた。  わたしの時は……お祖父ちゃんはどうやって三人にお礼をしていたんだろう……    親代わりのような常連さんが多いと、こういう時にどこまでどういうお礼をすればいいのかわからなくて困る……   ***  今日は真樹が久しぶりに日付が変わる前に帰宅できた。  足のリハビリも上手くいっており、押し付けられた仕事も何とか目途がついたらしい。 「じゃあ、今週の日曜日に連れて来るんですね?」 「はい、みんなの都合を聞いたら、今週の日曜日がいいって言ってるらしいです」 「そうですか。わかりました」  そういうと、真樹がハンバーグを食べながら何やら上の方を見て考えていた。 「どうかしましたか?」 「ん~?いや、最近の大学生はどんな感じなのかな~と思って。俺も卒業してまだそんなに経ってませんけど、やっぱり学生時代と社会人とでは全然考え方とか感じ方も違うし……」 「そうですね。わたしなんてもっと前ですから……店にもたまに若いお客さんが来ますけど、ノリがよくわからない……」 「あ~……いや、女子高生のノリはまた独特というか……」  真樹が眉間に皺を寄せて、う~んと唸った。 「傍から見る分には可愛らしいんですけどね。ちょっと彼女たちの笑いどころがよくわからなくて戸惑います」 「可愛いんですか~……ふ~ん……」  律がふふっと笑うと、真樹がなぜか口唇を尖らせた。  あれ?真樹さん機嫌悪い? 「え?可愛く……ないですか?」 「そりゃまぁ……可愛いですけど……」 「けど?」 「あ、いや、何でもないです。可愛いですよね、女子高生」  真樹がハッとした顔をして、急いで律に笑いかけた。  ん~?今のが作り笑いだってことくらいはわたしにもわかりますよ!? 「わたし何か変なこと言いましたか?」 「いや、言ってませんよ?あ、このハンバーグおいしいですね!!」  真樹さん?誤魔化し方が雑っ!!!    律がジト目で真樹を見ていると、視線を泳がせていた真樹が観念して大きなため息を吐いた。 「……すみません、ちょっと女子高生に嫉妬しただけです。何か最近俺ヤキモチばっかり妬いてますよね……あ~~~もう!!本当にすみません!俺、余裕なさすぎ……かっこ悪っ……」  真樹が真っ赤になった顔を両手で覆った。 「え!?ヤキモチ!?え……女子高生にですか?」 「ぅ~……いやもう、忘れて下さい!!俺お風呂入ってきます!!」  真樹が慌てて逃げだした。  ヤキモチ?真樹さんが?  真樹が女子高生相手にヤキモチを妬いてくれるとは思ってもいなかった律は、びっくりしてその場で固まってしまった。  え、真樹さん可愛すぎません!?何ですかそれ……ホントずるぃ……  律は時間差で真樹以上に真っ赤になった頬を両手で挟み込みながら、その場に崩れ落ちた―― ***

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