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おともだち 第85話(春海律)
――日曜日当日。
朝から律はソワソワしていた。
今日来るマリアの友達は5人。
大学に入ってから特に仲の良い子たちだそうだ。
店の方に来るらしいが、部屋にも上がるかもしれないので、昨日店が終わってから家中の掃除をした。
あ~緊張する……!!
突然来られるのはもちろん緊張するが、事前にわかっているのも緊張する……
理由 もなく家の中をウロウロしてしまう。
子どもの友達が遊びにくる時の親の心境ってこんななのかなぁ……
「律さん、落ち着いて」
「ひゃっ!?」
背後から近づいてきた真樹にいきなり声をかけられて、律は思わず飛び上がった。
「あ、すみません、そんなに驚くとは……」
「だだだだ大丈夫ですっっ……!!」
心臓が口から飛び出るかと思ったっ!!
ドキドキする胸を押さえながらへたりこんだ律を見て、真樹が吹き出した。
「ふはっ……っははは」
「何ですかっ!?」
「ごめん……っくく……はははっ」
「笑い過ぎですよぉ~!!」
「今日お店開けるんでしょう?そんなに緊張してたら美味しいコーヒーが入れられませんよ?」
「だってぇ~……」
「律さん、おいで?」
真樹が両手を広げて律を呼んだ。
笑われたことに少し拗ねながら真樹に近づくと、グイッと腕を引っ張られて抱きしめられた。
「わっ……え、あの……真樹さん?」
「ドキドキするのは、俺だけにしておいてください」
「ぇ……?」
ここのところずっと仕事が忙しくて疲労気味のせいか、最近の真樹は少し甘えん坊だ。
真樹が甘えてくれるのは嬉しいのだが、甘える時は可愛いだけじゃなくて色気も普段よりも増すので、たまに耐えられなくなる。
「真樹さんには、いつもドキドキしっぱなしですよ!?」
「うん、俺も律さんにはドキドキしっぱなしです」
「ええ!?いやいやいや、それはないでしょう!?」
「……なんで?」
「だって……」
真樹さんの前でいまだにアタフタしてばかりの自分と違って、真樹さんはいつだって余裕の表情だし……そりゃ確かに、この間は少し真樹さんが嫉妬してるところとか見れたけど……
「俺、律さんにはいつもいっぱいいっぱいですよ?余裕なんて全然なくて、情けないところばっかり見せちゃってるし……」
「えええ!?あれで余裕がないなら、余裕のある時は一体どんなですかっ!?」
「いや、どれのことを言ってるのかわからないですけど……少なくとも今まで付き合った子相手にこんなにドキドキしたことはないですよ」
「……え?」
真樹がちょっと照れながら苦笑した。
……今までの彼女さんよりもわたしといる方がドキドキする?
あぁ、ダメだ。顔がにやけちゃう……
嬉しくて照れくさくて何だか自分が変な顔をしているような気がして、真樹の肩口に顔を押し付けた。
「おっはよ~ございまぁ~~~っす」
マリアの声に驚いて顔をあげると、部屋の入口にしゃがみこんで両手で頬杖をつきながら白けた顔で二人を眺めているマリアがいた。
「お、おはよぅマリア!!えっと、朝ごはん食べますか!?」
律は急いで真樹から離れると、台所に向かった。
「マリア、お友達は何時に来るんですか?」
「え~と、11時?」
「お店の方に来るんですよね?」
「うん、お店よ」
「場所はわかってるんですか?」
「駅に着いたら電話かかってくるから私が迎えに行く!」
「その方がいいですね」
「うん!」
真樹と話しているマリアの声も弾んでいた。
イギリスではホームパーティーをよくするので、友人を家に招く機会が多い。
だから本当はずっと友達を呼びたかったのだそうだ。
ただ、今は居候をさせて貰っている状態だし、律とのフィアンセ問題もあるので、遠慮していたのだとか。
負けん気が強いせいか自分で口に出すことはないけれど、もうマリアは真樹に張り合うつもりはないらしい。
普通に真樹にも懐いている。
っていうか、ちょっと羨ましいくらいに仲が良い……
マリアが人懐っこいせいか真樹にも上手く甘えていくので、何だか父と娘というか、兄と妹というか……恋人同士じゃないだけマシなのか……
律は、マリアと真樹が愉しそうに話しているところを見るとちょっとモヤッとしてしまう自分に気付いて、自分の心の狭さに苦笑した。
***
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