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おともだち 第87話(春海律)
「おや、村雨君もいたのか!若い子たちの中にいても違和感がないねぇ。気づかなかったよ」
律が持って行こうとしていたパフェを受け取りに来た真樹を見て、先生が驚いた。
「先生、こんにちは。俺まだ大学生でも通りますか?」
「後ろ姿だけ見るとわからないものだね」
「ん?それって前から見たら老けてるってことですか!?」
「ぅ~ん……どうだろうね?」
先生が真樹を頭のてっぺんからつま先までじっくりと見て、にっこり笑った。
「先生~!?まぁいいですけどね……俺老け顔らしいんで……」
「真樹さん、パフェ落とさないで下さいね!?」
「ふぁぁ~い……」
真樹が若干いじけながらパフェを持って行った。
体幹とバランス感覚がしっかりしているせいか、落ち込んでフラフラ歩いているようでもお盆の上のパフェと紅茶は見事に水平を保っていた。
真樹さんって……大道芸とかも上手そう……じゃなくてっ!
「もぅ!先生ったら、村雨さんをいじめないで下さいよ~!」
「いや、いじめるつもりはなかったんだけどね、彼の反応が面白くて」
「村雨さん、老け顔気にしてるんですよ。そんなに老け顔じゃないと思うんですけど、なんていうか、雰囲気が落ち着いてるから、年齢よりも上に見られちゃうみたいで……」
かくいう律も最初は真樹の方が年上だと思っていた。
というか、つい先日その話を真樹としたところだった。
だから本当は先生に文句を言える立場ではない。
うん、私も真樹さんに老け顔のことはあんまり言わないように気をつけよう……いや、全然老け顔じゃないんですけどね!?
「そうだねぇ、それに彼はちょっとあの年齢にしては達観し過ぎているところがあるから、たまにはああいう年相応の表情が見られるのはいいものだね」
先生が孫を見るような目で真樹を見て優しく笑った。
「でも、村雨さんは結構甘えん坊さんですよ?」
「そりゃあ、マスターの前でだけだよ。好きな人には甘えたくなるものだからねぇ」
「え?あっ……やだもう!からかわないで下さいよ、先生!」
照れ隠しに先生の肩を軽く叩く真似をする。
「ははは、仲良さそうで安心したよ」
「おかげさまで、仲良くしてもらってますよ――」
真樹が甘えるのは律にだけ……?
本当にそうならいいなぁ~……
――この日は一日中店内から若い子たちの愉しそうな笑い声が響いていた。
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