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第3話

 暫く無言の時間が流れ、アンナは口を開いた。 「鷲尾さん、そろそろベッド行かない? この時間も料金発生してるし、もったいないけど」  そう言うと、アンナは鷲尾の姿に目を疑った。鷲尾の顔がみるみる真っ赤になっていったのだ。 「ど、どうかした? あっ! 実は女の子のデリヘルと間違えた?」 「いや! 間違えてない!」  なら、なぜこんな恥ずかしそうにしているのだろうか。 「よし! ベッドに行くぞ」  妙な気合い入れ方をし、鷲尾は立ち上がった。 鷲尾の後に付いていくと、リビングから出て左の扉を開けた。  そこにはキングサイズのベッドがあり、アンナは目を丸くした。 「すっげー! これ、キングサイズ⁈」  アンナはベッドにダイビングした。ラブホではなく、個人の家にキングサイズのベッドがある事に、アンナのテンションが上がった。 「あっ……」  ベッドに体を沈めた瞬間、 (怒られるかも……)  自分のあまりにも子供のような行動に我に返る。 「ご、ごめんなさい、調子に乗りました」  アンナは正座をし、鷲尾に謝罪をする。頭を下げると頭上で、クックックッと、笑いを堪えるような声が聞こえた。 「いや、全然構わない」  先程までの強面な表情はなく、その顔は随分と幼く見えた。 (この人、可愛い)  アンナの胸が高鳴るのを感じた。  鷲尾はベッドの端に腰を下ろし、今度は少し改まった顔をしている。 「アンナ」  初めて名前を呼ばれ、アンナの胸がまた高鳴る。 「俺が今から話す事を聞いて、嫌だと思ったら帰ってくれていい。もちろん、金は払う」 「わかった」  コクリと頷くと、鷲尾の言葉を待った。 (ヤクザってこと、言おうとしてる? だったら、分かってるけど) 「実は、その……」  鷲尾は言いにくそうに、顔を背けると、 「あー……その、ど、ど……」  そこから鷲尾の口から言葉が出てこない。 「ど?」 「ど、童貞なんだ……」  今の顔を見られたくないのか右手で顔を覆っているが、顔は真っ赤なのは耳を見れば分かる。 「え?」  鷲尾の言葉にアンナは言葉を失った。 「嘘でしょ? だって鷲尾さん、いくつ?」 「先月で……四十に……」  声が段々と小さくなっていく。 「嘘!」 「嘘じゃねぇ!」  いたたまれなくなったのか、アンナから顔を背けてしまった。 「ぷっ……! ぶははははっ!」  笑いを堪えることはアンナは到底できなかった。アンナはベッドに転がりながら、腹を抱えて爆笑した。 「その顔で、童貞とか……! 信じらんねぇ!」  アンナは笑い過ぎて呼吸困難になりそうになり、ヒーヒーと何とか笑いを止めようとするが、鷲尾の強面の顔を見ると、再び笑いが込み上げてくる。 「好きなだけ、笑えよ……」  鷲尾は背中を丸め、明らか沈んでいる。 「あー、ごめん、鷲尾さん。ちょっとびっくりした。だって鷲尾さん、ヤクザでしょ? 男でも女でも囲い放題じゃないの?」 「ヤクザだからって、そうとも限らねぇだろ!」  開き直ったのか鷲尾は意気込んでいるが童貞と知った今、全く怖いとは感じず、むしろ鷲尾が可愛く見えてしまう。 「なんか、可愛いね、鷲尾さん」  アンナは俯いて凹んでいる鷲尾を覗き込む。 「な、何言ってやがる……! 男に可愛いとか言うな!」 「だって、可愛いよ」  そう言って、アンナは鷲尾に触れるだけのキスをした。

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