「で？　童貞を捨てたくて俺を呼んだの？　女の子じゃなくていいの？」 「女は何度か試してみたんだ。でもダメだった。女相手だと、緊張するし怖くて……」 「怖い？」 「ああ……ガキの頃、母親に毎日虐待されて、死にかけたんだ」 「そ、うなんだ……」 「それ以来、女に対して恐怖心があってな。だったら、男相手なら大丈夫かと思って」 　その時、幼い頃の自分と鷲尾が重なった。 　アンナ自身、母親を中学で亡くし母親の妹にあたる叔母に引き取られた。その叔母の旦那である叔父にアンナは犯された。叔父だけではなく、従姉妹である五つ上の息子にも犯された。三年近く、来る日も来る日も入れ違いで二人に犯され続けた。アンナはその日々に耐えかね、家を飛び出した。金を得る為に、結局体を売りボロボロになっていたアンナを今の店のオーナーに拾われたのだ。 　その事を思い出し、思わず鷲尾の肩を強く掴んでいた。 「俺と鷲尾さん、似てる」 　そんな言葉が不意に口から出た。 「俺もね、中学の時に叔父さんと従兄弟から、性的虐っていうの？　されてて」 　鷲尾が息を飲むのが分かった。アンナは過去この話をしたのは、今の店のオーナーだけだ。 「昔は俺、すっごく美少年だったからさ」 　そう戯けてみせたが、鷲尾は尚も表情を硬くしている。 「父親はオランダ人って言ったけど、父親知らないんだ。母親は一人で俺を育ててれたけど、俺が十四の時に病気で死んじゃって。その後は母親の妹夫婦に引き取られたんだけど、そこの旦那と息子に毎日のように犯された。三年くらい我慢したけど、限界感じて家飛び出して、今に至るって感じ」 　話とはそぐわない綺麗な笑みをアンナは浮かべている。 「そんな……笑って話す事じゃねぇだろ」 　鷲尾の表情は苦痛に歪んでいる。こういう話しは、意外に聞かされている方が辛いのかもしれない。 　この仕事をしている理由は、その叔父と従兄弟からされた事を上書きしたい、という思いからだった。あの時の事を思えば、知らない相手とのセックスに何の抵抗も感じなかった。 「でも、ほら、こうやって鷲尾さんに出会えたし？」 　鷲尾の肩に頭を乗せると鷲尾は頭をそっと撫でてくれた。 　それが、堪らなく泣きたくなった。一時でも幸せだと思える時間を過ごせている。本当は何度も死のうと思った。だが、死んだら負けだと思った。生きていればきっと、幸せだと思える日が来る、そう信じて生きてきた。もしかしたら、それが今なのかもしれない。 「似ているな、俺たちは」 　鷲尾も自分も不幸な幼少期を送り、その不幸な幼少期という共有できる事柄を持った事に互いに気付き、親近感のようなものが沸いた瞬間に思えた。