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第7話
その日は、それで終了し帰り際、鷲尾から名刺を渡された。
《黒栄会赤城組 若頭 鷲尾恵多郎》
金色の文字でそう書かれており、裏側には手書きで携帯番号が書かれていた。
「何か困った事があったら、連絡しろ」
名刺を渡される際、そう言われたがアンナは、
「また、鷲尾さんの淹れたコーヒー飲ませてよ」
そう言った。
鷲尾は面食らった顔をしたが、フッと笑いを溢し、
「おまえは変わってるな」
呆れた声にも聞こえたが、その表情は柔らかかった。
「そう?」
「俺がヤクザもんって分かっても、媚びたり怯えたりしない。おまえみたいのは初めてだ」
「俺も最初はビビったけど、コーヒー淹れてくれたお客さんって初めてだったから、嬉しかったよ」
「そうか、また飲みに来い」
「じゃあ、また呼んでくれる?」
「練習させてくれるんだろ?」
鷲尾は口角をあげ、ニヤリと笑った。
その言葉にアンナの顔はぱぁっと明るくなる。
「じゃあ、また」
アンナは手を大きく振ると、鷲尾はコクリと頷いてくれた。
それから鷲尾は週に一度は必ずアンナを指名してくれた。
毎回、鷲尾はひたすらアンナの乳首を無心に吸い続けた。その間、アンナは愛おしむように鷲尾の頭を撫でる。最後は鷲尾の中心を口で奉仕し終了する。
それが一通り終わると、毎回鷲尾はコーヒーを淹れてくれるのだ。コーヒーに詳しくないアンナでも、いつも違う味のコーヒーを淹れてくれているのに気付いていた。
その鷲尾と過ごす時間が、アンナの中で特別になっていた。
困った事があるとするなら、鷲尾によってすっかり乳首を開発されてしまった事だろう。今は触れられただけで感じてしまう体質になってしまった。
そして、鷲尾と会う度にアンナは鷲尾に惹かれていった。客を好きになったのは初めてだった。
こんな強面のヤクザが、自分の乳首を赤ん坊のように夢中で吸う姿が堪らなく愛しいと思う。こんな鷲尾の顔は自分しか知らないのだ。そう思うと、優越感にも似た気持ちと愛しさが込み上げくる。
それでも、最後に鷲尾から金を受け取る瞬間、アンナは現実に戻される。自分は特別なわけではない、鷲尾は客なのだと。そして鷲尾が人肌に慣れた頃、自分は不要になる。鷲尾は女性との結婚が決まっているはずだ。それを思うと酷く落ち込んだ。
それでも時間が許す限り、鷲尾との時間を大切にしたいと思った。
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