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Extra edition.6
数年ぶりのこの街はあまり変わっていなかった。
ゴミゴミ感が少しだけマシになっている気はしないでもないが、相変わらず派手な看板と照明の下で、変に飾り立てた若者がヘラヘラと笑い、道行く人を釣り上げている。
お兄さん―――と、掛かる声を聞き流し歩くと、10分もせずに目的の場所が見えてきた。
―――意外だな。
目的の店は、黒と銀の組み合わせで、落ち着き払った様子は何処かのホテルのような外装だった。他の店と比べると、場違いなほどのシンプルさだ。
ホストクラブと思われないのではないだろうか―――と、どうでもいい事を考える。
その黒い店の入り口で、ソワソワと落ち着きのない若い男が立っていた。
たぶん、あれが『ショウ』だろう。
悟志と目が合うと、弾かれたように駆け寄ってきた。人懐こい笑顔といい、犬のようだ。
「あの、『サトシさん』ですよね?」
「キミはショウくんだね。」
何故、顔を知られているのか怪訝には思いつつも、ショウに促されて店内へ足を踏み入れた。
「来てくれて助かりました。アオのせいで、店が滅茶苦茶なんですよ。無理に下がらせようとしても、柱にしがみついて離れないし。」
あいつは何をしているんだ―――と、頭が痛くなる。青弥の保護者になったつもりは無かったが、監督責任を問われている気分だ。
内装は多少キラキラしてはいたが、やはり黒を基調とした雰囲気で、落ち着き過ぎている気がした。
また、どうでもいい事を考えてしまう。
「サトシさん、こっちに―――」
ショウが言葉を切り、前方を見据えたまま急に固まる。怪訝に思いながら、ショウの肩越しに後ろから顔を出し、悟志はギョッと目を見張った。
「う―――、ぐっ、さとし、さん、うぇ、おれ、ごめん、」
髪はボサボサ、服装は乱れ、綺麗な顔をグシャグシャに歪めて、青弥が泣いていた。
いつものキラキラ具合はどこへ消えたのか、かなりみっともない男と化している。
うぇうぇ―――と、子供のように泣きじゃくり、謝った後は何を話しているのか全く聞き取れない。人目を気にしない泣き方は、5歳児並だ。
―――なんだ、この子供は。
恐らく、店内の全員がそう思っている。
はぁ―――と、悟志はため息を腹の底から吐き出して、青弥の前に歩み出た。目線を合わせようと床に膝を付くと、青弥が逃げるように顔を伏せる。
「青弥。」
「う、ぐぅっ、」
名を呼ぶと、青弥が潰れたカエルのような声を出す。カエルが潰れた時に居合わせた事はないのだが。
現状の滑稽さに、クククッ―――と、悟志は笑ってしまった。すると、キョトンと不思議そうに青弥が顔を上げる。
青弥の顔は、目は腫れていつもの半分くらいになっているし、鼻水と涙が入り交じり、酷い有り様だった。こんなみっともない姿を見て、堪らない気持ちになるなど。
―――まさか、おまえに落とされるとはな。
「さっさと帰ってこい。バカ犬。」
悟志は晴れやかに笑いながら言い、青弥のボサボサの頭を更にグシャグシャにした。
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