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隔たりの恋人#2
寝室も、ほとんどものがなかった。狭いベッドが一台と、椅子と、小さなクローゼットだけ。ただ、大きな本棚がある。本が上までぎっしり詰まっていた。やっぱり、勉強家なんだな。それを知っただけで、ハイドの胸になにかが弾けた。ウィルクスをベッドに座らせ、両腿のあいだに体を入れる。ちらりとウィルクスの脚のあいだを見た。無残なほど盛り上がっている。ズボンの中のその姿を見なくても、触らなくても、どれだけ興奮しているのかわかった。
ハイドは手袋を脱ぐと身を乗りだし、ふたたび唇に口づけた。ウィルクスも少し慣れたのだろう。今度は、ハイドの動きに身を任せている。だが、なすがままとは少し違った。ハイドの舌に応えようと、軽く食んでくる。少しはリラックスしてくれたみたいだ。それにほっとして、ハイドはキスを深めながらウィルクスのシャツのボタンに手を掛けた。
ハイドは目を閉じてキスを味わい、手探りでボタンを外していった。ウィルクスの舌が甘く絡みつく。
「ん、ん……は、ぁ……」
漏れる吐息がいちいち可愛い。ハイドはもはや息をするようにウィルクスを可愛いと思っている自分に驚かなかった。唇を離し、目を開ける。ちゅは、と濡れた音が鳴った。ウィルクスの顔が緩んでいる。半開きになった口から舌が覗いていた。ハイドは彼の顎に垂れた唾液を舐め、痩せた体をベッドの上に押し倒した。
ウィルクスのサスペンダーを肩から外し、ズボンに手を掛ける。比翼のボタンを下まで外した。外すときに、すでに勃起した男根が布越しに指先に当たる。仕事で遺体を見るときに男性器を目にすることがあるとはいえ、生きている男のペニスを前にするのは初めてだ。しかも、勃起している。すでに濡れているらしく、性器を覆うシャツの裾にシミができていた。
「腰、浮かせて」
ウィルクスが言う通りにしてくれると、ハイドはズボンをつかみ、足首まで引きずり下ろした。
「ひっ」とウィルクスの喉が鳴る。シーツに顔を埋めた。
耳が真っ赤だ。噛みたい。
歯を軽く耳にすべらせると、ウィルクスはひくんと跳ねた。ハイドはスリッパを脱がし、ズボンを引き抜く。床に降りている脚を抱え、ベッドに乗せてやった。
ウィルクスの脚は筋肉質で、茶色の毛が生えている。どう見ても男の脚なのに、ハイドは魅入られていた。なぜなのかと不思議だった。これまで見た女たちの白いふくらはぎを思いだす。ウィルクスのそこは引き締まっていて、噛むとさぞ弾力があるだろう、と思わせた。食欲が煽られる。
ハイドはふくらはぎを軽く噛んだ。
「んっ」
ウィルクスが声を漏らす。顔を背けたままだ。ハイドはひとまず、自分も服を脱ぐことにした。上着を床に放り、ベストを脱ぐ。サスペンダーを外し、シャツのボタンを開いた。ウィルクスがその姿をベッドに倒れたまま見上げていた。
逞しく盛りあがった胸筋と、引き締まった腹。太い木の幹のような腰。夢の中では見えなかった。その裸が、今目の前にある。自分のものとは違うがっしりした肉体。皮膚には張りがあったが、少しくすんでいて、そのごつごつした感じが四十一歳という歳にふさわしい。
それからウィルクスのシャツのボタンをさらに外す。次第に上半身があらわになる。痩せた、しかし張りのある胸。少し濃い、しかしくすみのない大豆色の乳首がかすかに赤く色づいている。ハイドは唾液を飲みこんだ。ほんとに処女みたいだ、と思う。清楚だ。硬く勃起している。ウィルクスは胸を両手で隠した。そのしぐさに、ハイドは思わず笑みを漏らす。しかし、ウィルクスが恥ずかしがっていることには今は触れないでおく。
黙ってシャツのボタンを最後まで外した。形のいい臍と、身をもたげたペニスが覗く。ハイドは少し驚いた。セックスしたことがないと言っていたが、いい色だ。しっかり剥けていて、若々しい雄の力を放っている。体格に見合って立派だ。視線に気がついたウィルクスが慌てて股間を押さえ、震える声で言った。
「ち、ちが……自分では、し、してないです……」
「オナニー、したことないのか?」
「か、体に、悪い、から……」
しどろもどろのウィルクスを、ハイドは天然記念物を見るような目で見た。オナニーをすると健康を害するというのは、広く信じられていることだった。ウィルクスはもはや首筋まで赤い。目を逸らし、ベッドの上で丸くなっている。手で股間を隠しているが、茶色の陰毛は覗いていた。奔放なそこにハイドは思わず笑顔を浮かべる。
ウィルクスの体からシャツをとり去ると、彼はますます体を丸めた。あの凛々しい騎士が、と意外に思えるほどのはにかみようだ。ハイドもズボンを脱いだ。ウィルクスの喉がごくりと鳴る。黒い陰毛の下で、見る者を一瞬無言にさせるサイズの男根があらわになった。自分のものではない、男の性器を見たのはこれが初めてだ。遺体の性器はカウントしない。本物の、生きた男の性器。しかも、ハイドさんの。ウィルクスの体が震える。ハイドのペニスは軽くだが、勃起していた。そのことに、刺し貫かれるような悦びを感じる。ウィルクスは興奮に身をゆだね、浅く息をした。
ハイドがのしかかってきた。ベッドがぎしり、と軋む。影が覆いかぶさる。ウィルクスの顔はすでに、欲情でとろけていた。完全に肉欲に征服されている。怖がっているのに、目が誘っていた。ハイドの手が彼の短髪を掻き上げる。こめかみの窪みにキスし、唇に唇を重ねた。三回目。だが、ハイドが期待したほど、ウィルクスはリラックスしていない。これから抱かれる、という期待と緊張で張り裂けそうなのだ。もう一度、教えるようにキスを深くする。ウィルクスを感じることで、ハイドもリラックスしようとしていた。言ってはいないが、誰かと寝るのはずいぶん久しぶりだった。
キスに、ウィルクスは顎を反らして体に力を入れた。あやすように舌を絡め、上唇を噛みながら、ハイドは手を胸に這わせた。手のひらに、ウィルクスの肌はしっくりと吸いついてくる。胸骨をなぞって、腹に触れる。引き締まった腹だ。ゆっくりと撫でて、手のひらを腰に這わせ、キスを続けた。
「っは……、ハ、ド、さん……」
ウィルクスの吐く息が湿っている。雛のように口を開けるので、舌を食みながらささやいた。
「ん、いるよ」
尾骨をなぞったあと、煽るように撫で上げる。胸に触れたあと、乳首に人差し指を引っ掻けた。勃起した頭を、中指で軽く転がす。
「ん、っ」
ウィルクスは口を離すと、ハイドの胸を押しあげた。突起に羽根のように触れられ、もぞもぞと身をよじる。体が小刻みに震えている。乳首が熱かった。一度も触れたことのない場所なのに、むずむずした甘い快感が下まで走る。
「あ……、な、んか、へ、変……っ」
助けを乞うようにハイドを見上げると、その顔は険しかった。しかし、目が合うと優しく笑った。
「ウィルクス君は、ここが性感帯なのか?」
種のように浮き上がった頭をそっとつまむ。ウィルクスはぴくぴくと跳ねた。なんだかそれがとても恥ずかしいことのような気がして、「ちがう」と言っていた。涙を浮かべてシーツに顔を歪め、もう一度「ちがう」と言う。
「大丈夫だよ。たいていの人はみんな感じる場所なんだから」
じゃあなんで、わざわざおれの性感帯なんて言うんですか。そう抗議したかったが、唇をキスで塞がれた。ハイドの舌がねっとりと絡みついてくる。なけなしの意地で、舌を軽く噛んだ。すると、ハイドの手が少し荒々しくなる。つまんだ乳首を軽く擦りあわせた。ウィルクスの背がのけぞる。唇を塞がれていて、声を出すことができない。ただひくひくと震えるだけだ。
胸の突起をいじられるたび、むずむずして、股間に快感の信号が走った。ペニスも乳首も、恥ずかしいくらい勃起しているのが自分でもわかる。初めて触られて、それだけでも苦しいのに、今は突起をいじられて狂いそうだった。こんな小さな場所で。そう思うのに、乳首は硬く反りかえり、すっかりハイドの指に発情していた。
キスが終わり、唇が離れる。
「はぁ……あ……っ」
ウィルクスは酸素を求めてはくはく喘いだ。乳首をつままれるたび、腰が反る。しかしハイドと目が合うと、彼の首に腕を回した。頭をぐっと自分に引きつけ、半白の髪に指を通した。なんとか鋭い目をしようと努力する。このままじゃ情けなさすぎる。そう思うのに、目に力が入らない。かえって、ウィルクスの目つきはおかしくなった。欲情でただれた淫らな目だった。ハイドのスイッチが、色づくようにゆっくりオンになっていく。
しかし、ハイドはまだ自分を麻痺させていた。ただ、麻痺させていられる間隔が短くなっている。
もう一度ウィルクスの唇に軽くキスしたあと、さっきまで弄んでいた左の乳首に唇を押しつける。
「あ……っ」
ウィルクスの喉から声が漏れた。電流がびりびりと乳首からペニスに走る。男根はさらに身をもたげた。頭はもうじっとり濡れている。
ハイドはぷっくりと尖ったそこにキスし、舌先で舐めた。ウィルクスの体がひくつく。ハイドは形を確かめるように舌で包み、軽く吸った。
「は、あ……あ……」
顔をシーツに押しつけると、ウィルクスはそこをきつく噛んだ。変な声が出るのが嫌だった。恥ずかしくて、息が肺の中で熱く燃える。小刻みに震えながら、また不安になってハイドの頭を抱いた。ハイドは乳首を舐め、もう片手を体に這わせている。なめらかな腹が好きで、背中に手をまわし、背骨の窪みに手のひらを添わせる。ずっとこうしたかった。
「声、聞かせて」
ウィルクスの耳元でささやいた。ウィルクスはぴくっと跳ね、ハイドを見上げる。薄く涙が溜まって、目のふちは赤くなっていた。ふだんの凛々しい顔が無残に崩れ去っている。だらしないほど緩んでいた。
「お、れ……」
ぶるっと震え、とり憑かれたようにハイドを見上げる。
「へ、変……」
「変じゃないよ。きみは正しい」
赤くなった耳を噛む。唇を耳の裏側に押し当てて、うなじまですべらせる。
「聞かせてくれるか?」
ウィルクスはふるりと震え、崩れた顔でへらっと笑った。
「は、い……」
息を漏らすように答え、シーツに顔を押しつける。ハイドの手が、顎をすくいとるようにウィルクスの頬に触れた。
「顔も見せて」
「や、はず、かしい……」
「可愛いのに」
その声に、ウィルクスは弾かれたようにハイドの顔を見上げた。声で挿入されたように、言葉が肉体の奥に沁みこんできた。全身を真っ赤にしながら、悦びで震えた。長い手足を縮めて、幸せそうな顔をする。その顔を見て、ハイドは思わず自分の脚のあいだに視線を向けた。激しく勃起している。それがわかって、楽になった。
乳首に歯を押し当てて、引っかける。舌先で優しく嬲ると、ウィルクスは与えられる快楽に体をくねらせた。同時に感じる、下半身の激しい興奮。脈打っているようにすら感じる。そこは出したい出したいと駄々をこね、叫んでいた。だが、自分で陰部に触ることができず、訴える目でハイドを見る。ハイドは顔を上げて、視線が合った。
大きな手がするりとウィルクスのペニスに絡みついた。
「ひ、っ」
声を漏らし、ウィルクスはぎゅっと目をつむる。ハイドは手のひらに包んで、赤子の手をさするように激しく勃起した陰茎を優しく扱いた。
「あっ、あ……あ、あ」
声が次々と口から溢れだす。それが怖くて、ウィルクスは手の甲を噛もうとした。ハイドはもう片手でウィルクスの口を覆った。指を中に挿れると、しゃぶりついてくる。ウィルクスは指をちゅぱちゅぱと幼児のように吸いながら、股間に伸びたハイドの手に自らのペニスを擦りつけた。腰が浮き、かくかくと振っている。
指を吸われながら、ハイドはとり憑かれたようにその痴態を見ていた。性に対しても潔癖かと思いきや……。いや、ちがう。潔癖だからこその反動だ。ウィルクスは指に舌を這わせ、まるでそれがハイドの肉棒ででもあるかのようにしゃぶりながら、もっともっととペニスを擦りつけていた。電流が走り、性の快感に狂う。
ハイドの指が、裏筋をぐりっと押しあげた。
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