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隔たりの恋人#4

「いい子だね」  そう言って指を引き抜き、脚のあいだに腰を押しこむ。ウィルクスの体がびくんと跳ねて、濡れた目でハイドを見上げた。ウィルクスの息が荒い。先だけでも、挿れたら死ぬんじゃないか。ハイドは不安になった。今の段階で、触るだけで弾け飛びそうなウィルクス。誰とも寝たことがないということ、オナニーすらしたことがないということが本当なのだと、ハイドは実感する。なにもかもが初めてなのだ。肌に触れられることも、知らなかった快感を知ることも。  彼の初めてになれたのか。  それがうれしく、責任感すら感じる。絶対に、満足してもらいたい。若いころのように気負いが入る。ハイドは自らの怒張を握った。呼吸を整え、コンドームを嵌めて、陰茎にワセリンを塗りこめる。ウィルクスはベッドに仰向けに寝そべったまま、朦朧とした目でハイドの道具を見ていた。口が半開きになり、涎れがたらっと垂れる。必死におあずけを我慢している犬だ。  しつけは完璧だが欲望には忠実。飼いたい、と思っている自分に気がついて、ハイドは驚いた。ジェントリ階級なので、狩りに使う犬や馬の調教はお手の物だ。  いや、調教って。首を左右に振り、その考えを追い払う。ウィルクスの目は期待で濡れていた。欲しいと言わんばかりに、自分で尻の穴をなぞって見せる。ハイドはまんまと煽られた。 「挿れるよ」とささやいて、頭をぐっと押し当てる。濡れた亀頭とアナルが触れあい、ちゅっとキスしたような音が鳴った。踏み込むと、ウィルクスはびくんと跳ねた。 「っああ……!」  シーツをきつく握り、腰を反らせる。ハイドが思った以上に、きつい。それでも、筒の中は従順だ。ハイドにしがみついている。必死に慣れようとしていた。アナルは口を開け、はっくりと彼を飲みこむ。 「はん、ん、チ、チンポ、でか……っ」  ウィルクスは悲鳴を漏らした。でかいと言っても、まだ先端が入っただけだ。ほら、むりだったんだよ、とハイドは言おうとした。しかし、ウィルクスは彼を見上げたまま笑った。 「お、れのなかっ……い、いっぱい……に、して……ぇ」  淫らな薄ら笑いを浮かべている。それがウィルクス自身も知らない、彼が発情して気持ちよくなっているときの癖だった。ハイドの深部に電流が走る。さらに硬く勃起したせいで、ウィルクスはまたのけぞった。ハイドは自分自身を麻痺させようとした。しかし、いつもたやすくできるはずなのに、できない。剥き出しの神経を、ウィルクスの目が煽るように撫でる。  ふいに占いの答えを思いだした。 「あなたを脅かすものを見つめることが、あなた自身を知る手助けになるでしょう。なかったことにするのは簡単です」  怖かった。「ある」ことにするのが。今まで殺してきたものが、本当は死にきっていなかったことを知る。生きていた「恐怖」は今、膨らんで、ハイドにお前は生きていると教える。 もう止まれないことを理解した。抱き潰す。本能的にそう思う。腰に力を入れ、ぐっと剛直を奥に突き挿れた。 「ひ、んっ……!」  ウィルクスの目から涙がぼろぼろとこぼれる。咥えた雄が中で暴れている。凄まじい興奮だった。意識して緩めたり、締めつけたりしながら、深く飲みこもうとする。中にいるハイドが愛おしくてたまらなかった。脈打っている、それすら感じる。  入ったところを、ハイドはゆっくりと擦った。ウィルクスは必死で力を抜こうとしながら、気持ちいいのか、そうでないのか、わからなくなっていた。なんだか尻の中がじわじわする。むず痒くて、腰を揺すった。浅く入っていたため、中から出ないように、ハイドが腹に力を入れて自らをさらに沈める。 「は、ぁ……っ、あ……!」  ハイドがもう一歩踏み込んだ。圧迫感に苦しくなる。だが、次第に快感も感じはじめた。入り口付近を軽く擦られるだけで、ぴりぴりと気持ちいい信号が走る。幸せだった。この人のものになってる。まるで名前を刻みこまれているようだ。それがうれしくて、必死に咥えこむ。  ハイドはゆっくりと腰を動かして、中を探っていった。硬く太いものを飲みこんでいるため、ウィルクスはどう体から力を抜いていいかわからない。ハイドの手がウィルクスの頬を撫でている。大きく厚みのある手の手のひらは汗で湿っていて、ウィルクスはその手のひらに夢中でキスする。  ゆっくり抽送を繰り返す。まだ甘い責めで、ハイドは優しくすることしか考えていない。苦しさはあるが、中にハイドがいること、それ自体がウィルクスには深い快感になった。ゆっくりゆっくりと互いに探りあい、求めあった。ウィルクスの肉筒はハイドをきゅうっと抱きしめ、包みこんでいる。中で溶かすように咥えて愛した。ハイドはさらに押し上げる。  硬くなった亀頭がこりっとある場所を弾いた瞬間、ウィルクスはさっきまでとは違う快感を感じた。 「あ、あ……っ!」  こりこりと削り取るように擦られて、甘い痺れが尻の中を駆け抜けていく。今までの苦しさが軽くなり、多幸感が体じゅうに走る。それまであった体の「芯」がどろどろに溶けていくかんじだ。ウィルクスの顔が緩んだのを目にして、ハイドはそこを丁寧に責めた。 「ん、んん、あ……っ!」  はくはくと喘ぎながら、幸せそうに体を反らせる姿を見て、ハイドも沁み入るような幸福と欲情を感じた。そんなに悦んでくれるならと、執拗に何度も責める。ウィルクスは恍惚となって、その顔はまるでけだものだ。跳ねながら涎れを垂らし、ハイドの手のひらを舐めている。ハイドはとんとんと、軽く叩くようにペニスで前立腺を押しあげる。硬くなったそこが甘く手ごたえを返してくれるので、うれしくなってしまう。腰を振り、ウィルクスの体に重なった。中は柔らかく、あたたかい。共に昇りつめている。久しぶりに感じるその感覚が、ハイドを荒々しく揺さぶった。  ここでやめておこう。そう思って、ウィルクスの顔を見る。しかし、ウィルクスは貪欲だった。頬を撫でるハイドの手に手を重ねて、「もっと、きて」とささやいた。 「も、っと、奥……っ、シドを、か、感じたい、です……っ」  真剣なはずなのに、淫らな薄ら笑いを浮かべ、胸を上下させる。ハイドの中で、なにかがぷちっとちぎれた音がした。 「もう、知らないよ」  低い声でつぶやく。「ん」とウィルクスがうなずいた。ハイドの手を求める。指を絡めて握りあった。  ぐっと肉奥に、硬くそそり勃った怒張を突っ込んだ。 「ひィん……っ!?」  ウィルクスの喉から裏返った声が出る。反射的に体が逃げた。しかし、ハイドに押さえこまれる。さっきの甘い快感とは違う。もっと荒々しくて、もっと肉の底に響く。底からひっくり返されるように、背骨に痛いほどの快感が走る。ハイドはゆっくり腰を振った。奥を抉られて、ウィルクスの鼻から鼻水が垂れる。 「あっ! あっ! あぁっ! あ、んおぉっ……!」  快楽に濡れた情けない声が次々と喉から溢れていく。ウィルクスはもがくように上体を反らせた。ハイドは長く深い射程で、重い抽送を繰り返す。亀頭が最奥に当たり、ごつごつと荒々しいディープキスを叩きこんだ。腹の中が燃えている。ウィルクスは狂った。涎れを垂らして喘ぎ、エビのように跳ね、尻の奥にぶつけられる欲望の塊にちゅぱちゅぱしゃぶりつく。  いつのまにか、ハイドの腰に両脚を絡めていた。自分のほうに引きつけると、剛直がさらに奥に突き刺さる。 「っぐ、ひぁ……っ!」  ハイドが揺さぶる。先端だけでやめるつもりだったのに、奥までぐっぷりと飲みこんでくれたので、目の覚めるような快感を感じた。痛みはないらしいと、ウィルクスの乱れようから察する。それでも、念のため尋ねた。 「エド、痛いか……?」  ウィルクスはぶるぶると首を横に振る。 「い、いたっ、く、ない……っ」  涙と鼻水を垂らしながらなんとか答える。ハイドの目がさらに殺気立った。ウィルクスの鼻を拭って、唇に口づけた。呼吸を奪われ、あっというまに酸欠になる。胸を波打たせ、腰に絡めた脚を引き寄せる。もっと深く来てほしくて、必死になった。ウィルクスのとろけた顔を見ながら腰を振る。麻痺させられないことは、とっくに忘れていた。今まで殺していたものが今、鮮やかにほとばしっている。ハイドは深く深く己を叩きつけた。 「うぁっ、あっ! あ、ああ、ああ、ああ、っ!」  豊かな責めにウィルクスは体をのけぞらせ、悶えた。二人のあいだで、ペニスが透明な飛沫を散らしながらぶるぶると跳ねている。壊れていくさまが愛おしく、ハイドは腰を振りながら、さらにウィルクスの唇に貪りついた。互いに己をぶつけるように舌を絡める。 「ん、ふ、んんん……っ!」  酸素が脳にいかず、ウィルクスは朦朧となった。尻の中で快感が爆発し、背骨を駆け上って、脳天に突き刺さる。  ハイドの首に腕を回し、脚を開く。胸につくほど膝を折り曲げ、そのあいだにハイドがいるので、まるで二人は一つの生き物のようだった。ベッドがぎしぎしと軋む。ハイドの荒い息遣いが耳元で聞こえる。熱く、深く、狂って、ウィルクスは死ぬ、と思った。  ハイドのものが痙攣をはじめていた。おれの中で出してくれる。幸せに落ちながら、ウィルクスは突き上げられるままに果てた。  精液を散らすと、ハイドもウィルクスの中でコンドーム越しに射精した。ウィルクスは意識を手放した。

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