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第5話
「ヒカルはどうしてそんなに自信がないの?」
あの日から、愛希とはただのメンバーになった。2人は交互に躾けられ、透に服従するかのように夢中になった。
今日はヒカルが選ばれ、大好きだった言葉の愛撫の余韻に浸っていると、透からそんな言葉が投げかけられた。
「自信?」
「うん。無いだろ?こんなに素敵なのに」
「透さんだけだよ、そんなこと言ってくれるの」
躾られたからか、本心なのか、透を満足させるような言葉が勝手に出ていく。透は満足そうに微笑んで、首筋にキスをする。
「そうだな。ヒカルの魅力は、外に出す必要はない。俺にだけ見せてくれ」
強くキスマークがつけられて、明日のことが過ぎったが目を閉じて、明日を見ないことにした。この、ぬるま湯の逢瀬を楽しもうと切り替える。全てがどうでも良くて、ただひたすらに快感を求めた。
「見せつけてんの?」
「は?」
「キスマーク。僕はキスマーク付けてもらえるよって?」
愛希は嫉妬の塊をぶつけるようになった。愛を欲しがる愛希は、ヒカルという心の存在を失った後から、夜の生活がおかしくなった。毎晩誰かと寝てるのに、物足りなさそうにしては、他を妬んだ。
「別に?愛希だって首筋たっくさんついてるじゃん」
「透さんじゃないもん。汚れだよ、こんなの。いいなぁ、愛希には付けてもらえない」
「そんなにあったら付ける場所ないからじゃないの?」
「あ!そっか!それもそうだよね!盲点!」
安心すれば、すぐにニッコリ笑い、いつもの可愛い愛希に戻った。
だんだんこの関係性にも慣れ、前のように遊ぶようになり始めた頃、透の様子がおかしくなった。
「また翔ばっかり!あいつは大河の代わりにすぎないのに。事務所は翔を推しすぎだ!」
分かりやすく荒れて、個人の仕事にも口出し始めた。みんなが気を使って、必死にご機嫌になるように努めていた。それでも翔の人気は留まることなく、圧倒的なセンターとなった。
「愛希!来い!」
みんなが同情した顔で愛希をみる。ビクッと震えた後、作り笑いでついて行ったのを見送る。
「うわぁー…最近機嫌悪い日は愛希だよな。さすがに可哀想。」
「分かる。次の日熱出してたのに…透さん容赦ないな」
セナと陽介の話を聞いて、心配しながらドアを見つめた。
ピリリリリ ピリリリリ
(ん?何時…?2時…誰…)
長い間鳴り続ける電話に、眠い目を擦り、よく画面を見る。
「ッ!?愛希!?愛希?」
「ヒカルッ…ヒカルっ、っ、っ」
「どうしたの!?今どこ?」
「ぅっ、ぅっ、逃げちゃった…」
「え!?」
「透さんからっ、逃げたぁっ…、なんか、飲まされそうに、なって、っ、こわくて、」
「迎えに行くよ、そこにいて」
「ヒカルっ、愛希、愛されてないっ」
「…ッ」
「誰にも、愛されないよッ」
目を見開いて固まった。愛希を捨てた自分がすぐに出てきて心が痛んだ。
「愛希は、ストレス発散なんだ…っ、もぅ、嫌だよっ、やめたいっ、もうやめたい」
大好きなはずの芸能界を辞めたいと思うほどの恐怖だったのだと察して、すぐにジャケットを羽織って、もう1つ上着を持った。ビッグスクーターに跨って、電話を切る前に聞いた場所に向かう。
(いた…)
予想通りの薄着と、裸足。ケータイだけを手にして蹲る愛希。
「愛希!」
「っ…ごめん、ヒカル、ありがとう」
「大丈夫。ほら、これ着て。」
ピッタリの上着に満足して、ヘルメットを渡す。大人しく被って、後ろに乗った。
「透さんには?」
「連絡した。明日、カバンも服も持ってくるって。驚かせてごめんって。」
「そう。」
「で、今はセナさんが相手してる」
「そっか。」
それだけ聞いて走り出した。お腹に回った手と、背中に感じる体温が心地よかった。
部屋に入れて、お風呂を沸かして、愛希の好きなココアを入れる。
「愛希、お風呂沸いてるよ。」
いつまでも凹んでいる愛希に優しく言うも、ぼんやりとどこかを見ている。
「愛希」
「どうしよっ、どうしよっ」
みるみる目が潤んで、そっと抱きしめた。受け入れなかったことで、嫌われるのではないか、もう呼ばれないのではないか、と泣きながら不安を溢した。
(ねぇ、愛希。僕達はなぜこんなに必死なんだろうね)
明け方まで、愛希を抱きしめて、いつの間にか2人はすやすやと眠っていた。
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