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第7話
たくさんの人からの着信を無視して、ベッドに横たわって、天井を見つめる。
(天井なんて、久しぶりに見た…)
カツン カツン
ぼーっとしていると、寝室の窓に何か当たった。
(鳥かな?)
ゆっくり起き上がって窓を見ると、雨が降っていた。
(なんだ、雨か)
行き交う人が傘を開いていてきれいに見えた。その中の傘で、一つ、動かない紫色の傘があった。その傘が少し上を向いた。
「っ!!」
目があって息をのむ。しばらく目があったまま、動けなかった。
その傘から見えた人が、マスクをさげた。
(ヒカル、大丈夫?)
口パクで伝わった言葉に、目の前も大雨になった。鼻水も止まらないまま、サンダルを履いて愛希を迎えに行った。
「ヒカル!ちょっと!傘さしなよ!」
思い切り抱きつくと、傘に入れてくれた。頭をポンポンと撫でてくれて、落ち着くまでそうしていた。
「っっへっくし!!」
「あ、ごめん、寒いよね。あがる?」
「当たり前でしょ!?何時間ここで石投げたと思ってんの」
「石?」
「あれ?石に気付いたんじゃないの?」
びしょびしょの2人は玄関に入ると、ふふふと笑い合った。愛希の紫色の傘を立てかけて、2人でお風呂に入った。
「ヒカル、何かあった…?社長がね、ずっとAltairのところに来ては、ヒカルは?って。愛希も分かんなかったから…心配だった。」
「ごめん」
「ヒカル、話して」
湯船に向かい合わせだと、逃げ場がなかった。少し沈んで、ぶくぶくと水面を揺らした後、意を決して愛希に打ち明けた。
「透さんに、好きって言われた」
「…そっか。良かったじゃん」
愛希は一瞬傷ついた顔をしたが、無理矢理笑顔を作っていた。
「でもね、違ったんだ。トイレでヤってたら社長に見つかって…透さん、男に興味ないって。」
「え!?」
「驚いた…浮かれてたから…いきなり捨てられて…整理つかなくて…社長にも、恥ずかしい姿見られて…フォローされて…っ、辛くなっちゃった。」
あれだけ泣いたのに、まだ泣けるんだと、冷静だった。愛希は唖然として見ている。
「愛希、僕、“みんな”から、抜けたい。もう、透さんを諦めたい」
「そんな!でも、そしたらAltairにいられないよ!?分かるでしょ?」
「愛希!目を覚まして!これは、意味のないことだよ!」
「でも!いつか振り向いてもらえるかもしれないじゃん!」
「そんなはずない!!!!!」
大声を出すと反響して、愛希が黙った。
「愛希は、愛希はね、そんなこと、どうでもいいよ。ヒカルと同じグループでいたい。」
「愛希…」
「だから、ヒカル。諦めないで!頑張ろ?ね?愛希の隣にはヒカルしかいないんだよ?愛希の隣にずっといてよ!」
「愛希?透さんが好きなんでしょ?」
「好きだよ。」
「…」
「好きっ」
「…」
「ねぇ、好きなんだよ」
“誰が”と言わないところで察した。
あの日からずっと、愛希は見てくれていた。最近話しかけてきていたのは、ヒカルの心が完全に透に移ったのを不安がっていたようだ。
「好き」
「うん」
「好きなの」
「ごめん。」
「なんで謝るの?」
「心配…かけた」
愛希の前髪を掻き上げると綺麗なおでこが見えた。おでこを見せるのを恥ずかしがるのが可愛くて、そのおでこにキスをした。
「愛希、来てくれてありがとう」
「うん、愛希にしかできないもん」
「あっはは!んー!愛希可愛いっ!」
「当たり前でしょー?」
笑い合って、軽いキスをたくさんした。
「明日は、レッスン行こう?」
「…僕、Altairにいてもいいのかな?」
「Altairにはヒカルが必要!愛希が迎えに行くからね!」
「あはは!…うん、分かった。頑張る。愛希、不安だからそばにいてね?」
「もちろん!ヒカルの隣は愛希の場所だもん」
えへへ、と笑う愛希を抱きしめた。お風呂から目が離せない愛希の首筋のキスマークに、少し爪を立てた。
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