7 / 26

第7話

たくさんの人からの着信を無視して、ベッドに横たわって、天井を見つめる。  (天井なんて、久しぶりに見た…)  カツン カツン ぼーっとしていると、寝室の窓に何か当たった。  (鳥かな?) ゆっくり起き上がって窓を見ると、雨が降っていた。  (なんだ、雨か)  行き交う人が傘を開いていてきれいに見えた。その中の傘で、一つ、動かない紫色の傘があった。その傘が少し上を向いた。 「っ!!」  目があって息をのむ。しばらく目があったまま、動けなかった。  その傘から見えた人が、マスクをさげた。   (ヒカル、大丈夫?)  口パクで伝わった言葉に、目の前も大雨になった。鼻水も止まらないまま、サンダルを履いて愛希を迎えに行った。  「ヒカル!ちょっと!傘さしなよ!」  思い切り抱きつくと、傘に入れてくれた。頭をポンポンと撫でてくれて、落ち着くまでそうしていた。  「っっへっくし!!」  「あ、ごめん、寒いよね。あがる?」  「当たり前でしょ!?何時間ここで石投げたと思ってんの」  「石?」  「あれ?石に気付いたんじゃないの?」  びしょびしょの2人は玄関に入ると、ふふふと笑い合った。愛希の紫色の傘を立てかけて、2人でお風呂に入った。  「ヒカル、何かあった…?社長がね、ずっとAltairのところに来ては、ヒカルは?って。愛希も分かんなかったから…心配だった。」  「ごめん」  「ヒカル、話して」  湯船に向かい合わせだと、逃げ場がなかった。少し沈んで、ぶくぶくと水面を揺らした後、意を決して愛希に打ち明けた。  「透さんに、好きって言われた」  「…そっか。良かったじゃん」  愛希は一瞬傷ついた顔をしたが、無理矢理笑顔を作っていた。  「でもね、違ったんだ。トイレでヤってたら社長に見つかって…透さん、男に興味ないって。」  「え!?」  「驚いた…浮かれてたから…いきなり捨てられて…整理つかなくて…社長にも、恥ずかしい姿見られて…フォローされて…っ、辛くなっちゃった。」  あれだけ泣いたのに、まだ泣けるんだと、冷静だった。愛希は唖然として見ている。  「愛希、僕、“みんな”から、抜けたい。もう、透さんを諦めたい」  「そんな!でも、そしたらAltairにいられないよ!?分かるでしょ?」  「愛希!目を覚まして!これは、意味のないことだよ!」  「でも!いつか振り向いてもらえるかもしれないじゃん!」  「そんなはずない!!!!!」  大声を出すと反響して、愛希が黙った。  「愛希は、愛希はね、そんなこと、どうでもいいよ。ヒカルと同じグループでいたい。」  「愛希…」  「だから、ヒカル。諦めないで!頑張ろ?ね?愛希の隣にはヒカルしかいないんだよ?愛希の隣にずっといてよ!」  「愛希?透さんが好きなんでしょ?」  「好きだよ。」  「…」  「好きっ」  「…」  「ねぇ、好きなんだよ」  “誰が”と言わないところで察した。  あの日からずっと、愛希は見てくれていた。最近話しかけてきていたのは、ヒカルの心が完全に透に移ったのを不安がっていたようだ。  「好き」  「うん」  「好きなの」  「ごめん。」  「なんで謝るの?」  「心配…かけた」  愛希の前髪を掻き上げると綺麗なおでこが見えた。おでこを見せるのを恥ずかしがるのが可愛くて、そのおでこにキスをした。  「愛希、来てくれてありがとう」  「うん、愛希にしかできないもん」  「あっはは!んー!愛希可愛いっ!」  「当たり前でしょー?」  笑い合って、軽いキスをたくさんした。 「明日は、レッスン行こう?」  「…僕、Altairにいてもいいのかな?」  「Altairにはヒカルが必要!愛希が迎えに行くからね!」  「あはは!…うん、分かった。頑張る。愛希、不安だからそばにいてね?」  「もちろん!ヒカルの隣は愛希の場所だもん」  えへへ、と笑う愛希を抱きしめた。お風呂から目が離せない愛希の首筋のキスマークに、少し爪を立てた。

ともだちにシェアしよう!