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第8話
次の日、愛希と事務所に行くと、ヒカルは社長室に呼ばれて、マネージャーの長谷川と、社長と面談をした。デビューしてすぐの脱退は避けたいと言われ、頑張ると話した。長谷川のほかにも岡田もサブマネージャーに付くといい、手厚い管理になった。
グループの雰囲気は少し変わっていた。
(翔がついに浮いたか…)
大河の時のようにあからさまに嫌いはじめた透に便乗して、あまり話さなくなった。ヒカルはもともと愛希としか話していないので関係なかった。
人気も上がって、自分にもファンがいることが嬉しくなった。うちわやボードを見かけたら精一杯のファンサービスを頑張った。こんな自分にも喜んでくれたり、泣いたり、笑ったりしてくれるのが嬉しかった。
仕事が楽しくなってきたころ、あの大河がデビューする話があがった。
「ふーん。大河お友達できたんだ?まぁAltairが負けるわけないけど」
愛希か敵視しはじめたのは、そのメンバーの中の優一君。可愛いポジションで、歌もギターもでき、作曲もできるようだ。
愛希は歌が苦手で、いつもなんとなくで歌っていた。ダンスや愛嬌で沸かせているからいいと思っているが、愛希は内心焦りが見えた。
「マコがかっこいいんですよ!俺、学校からずっと好きで」
翔が興奮した様子で長谷川な話すのを聞くと、それも嫌になったのか、愛希は興味ない、と場を凍らせた。
さらに、透の気に入っているレイも同じグループになり、透も機嫌が悪くなった。
まずはRINGを調べようとデビュー曲を聞くと、ヒカルは驚いた。
(これは…勝てない)
圧倒的な歌唱力、バランス。誰もブレていない音源にヒカルは目を見開いた。
(…翔以外は歌唱力をあげなきゃ厳しいな)
ヒカルは音がズレていても、その時のベストな音で合わせていた。指摘するつもりはなく、できるだけ目立たないことを望んでいた。
(穏便にいこう)
そう思って焦るメンバーをよそに、ヒカルは淡々と日々を過ごした。
「ヒカル」
「ッ!!……はい?」
「今日、空いてる?」
「今日…は、ちょっと…」
あの日以来避けてきた透に、話しかけられ、楽屋を見渡すと誰もいなくて焦った。出て行こうとすると壁に押し付けられて、綺麗な顔がアップになる。
「ヒカル。」
「いや…です。」
「悪かった。…怖かったんだ、社長から…目をつけられてるから…」
声が震えていて、思わず目を見た。弱々しい顔で、実は、と話しはじめた。
「社長は…俺を辞めさせたいから…だから、ヒカルを守る余裕がなかったんだ。辞めたら…本当にお前たちを守れなくなるから」
「そうだったんですね…」
「許して、ヒカル。こんな、弱い俺だけど…」
今にも泣きそうで、弱いこの人を守らないとと、思ってしまった。腰にそっと両腕を回して胸に顔をつける。
「ヒカル…戻ってきて」
「うん。分かった…」
キスされると思った時、元気よく楽屋に愛希と陽介が入ってきた。バチッと愛希と目が合うと、ふわっと笑われた。
(仲直りだね)
嬉しそうな愛希に頷いて、ヒカルは自分から透にキスをした。透は珍しく顔を真っ赤にして、照れたように抱きしめてくれた。
この日の夜は、久しぶりに透に抱かれた。初めての夜のように、優しい言葉の愛撫を受け、幸せな夜を過ごした。
久しぶりの行為はヒカルを酔わせて、あんなに傷ついたのに、あれがウソだったんだと錯覚して何度も欲を吐き出した。
『っぁっ!っぁああ!透、さんっ!イっちゃう!イっちゃうーー!!ッぁあああ!』
意識がとんでいたヒカルは目を開くと、喘ぎ声が聞こえた。透はケータイに釘付けで熱を扱いている。
「ん…透さん?」
「はぁ、はぁ、ヒカル、見てよっ、愛希のイき顔…っ、たまんないよな、ショタにハマりそうになるよな…っ、」
「え?」
「あ、違うよ、ヒカルのもあるよ、ほら」
ケータイを見てヒカルは驚愕した。
透と関係のある人のフォルダがあったのだ。恐る恐る自分のを見ると、いつ撮られたか分からないものばかり。咄嗟に指が削除していた。
「こら!!なんてこと!!」
「透さん!こんなのやめてよ!僕、そういうの嫌だよ」
「まぁた…自信持ってって!」
「自信とかじゃないよ!…愛希やみんなも…知ってるんですか?透さんおかしいよ!」
はっきり言うと、ピタリと透が固まった。
「そうだよな、俺、頭おかしいよな。」
「あ…その…。」
「俺を知っていくとみんな離れていくんだ。ヒカルもそうなんだろ?」
またあの弱々しい顔に、慌てて抱きしめた。「守らないと」「支えないと」と、背中を摩った。
「透さん、僕はそばにいる。どんな透さんでも構わないよ。透さんは透さんでいたらいい。」
こうして、誰もが流されてるのも知らずに、使命感しかなかった。
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