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第11話

ヒカルは長谷川からの問題集に取り組んでいた。勉強は嫌いではなく、見抜いてくれた長谷川の目を信頼した。  クイズ番組で正解を出すたびに驚かれ、少しの優越感があった。  (学力で褒められる方が嬉しいって…本当に向いてないや)  後々、キャスターやコメンテーターとかで呼ばれたりしないかな、なんて妄想してはやる気を出して机に向かった。  (『ヒカル!勉強する暇があったら練習しなさい!!』)  母親の声が聞こえた気がしてペンを落とした。振り返るももちろん誰もいない。  (ははっ…懐かしい。)  鼻で笑ってまた問題集に戻った。  勉強に夢中になっている間、透や愛希のことはすっかり忘れていた。 愛希の中での愛憎にも似た嫉妬が、この後とんでもないことになるなんて、予想もしなかった。  ヒカルはただ、グループ存続のために、契約を切られないようにと必死に勉強を続けるだけだった。  「長谷川さんが倒れた!!」  「透さんが退所するって!!」  「グループはどうなっちゃうの!」  たくさんの、悲鳴にも似た怒号。混乱する事務所とAltairメンバー。  会議室はカオスな状態で、バサバザと落ちた資料を手に取った。  『Altairの不仲説』  『Altair格差問題』  『Altairリーダー透の支配』  赤裸々な内容に、息が止まりそうだった。  大騒ぎする会議室で、透が椅子に座ったまま、目を見開いて固まっていたのが覚えている。  社長が長谷川に出した選択肢が、あまりにも重過ぎて、何も出来なくて、ただ資料を握って濡らした。  「俺がAltairのサポートにつく!お前は関係ない!口出しするな!!」  岡田が怒鳴り散らすのは、新しいマネージャーの篠原樹。社長の指示とかで、何も知らない奴が退所の方向で進め始めた。  「岡田さん!俺たち解散しちゃうの!?ねぇ!透さんを守ってよ!」  「岡田さん!お願いします!このメンバーでやっていくために…長谷川さんも、みんなも努力してきたんです!!」  泣きながら愛希と翔が頭を下げて、岡田に思いを伝える。透はまだ動かないままだが、岡田が頷いて会議室を出て行った。  「誰が…こんな記事…こんなの内部告発じゃんか…」  陽介は疲れたように椅子に腰掛けた。晴天もその隣に腰掛けて、頭を抱えた。  「みんな、聞いて欲しい」  透が初めて声を出した。全員が透を見ると、優しい顔で微笑んでいた。  「…今まで、悪かった。そして、ありがとう」  透が頭を下げると、目の前がぼやけた。  言葉の意味があまりにも重たくて、息が詰まる。  「待てよ!まだ決まったわけじゃないだろ!」  セナが怒鳴る。そのセナを愛希は強く睨みつけたあと、愛希は場違いな発言をした。  「透さん!!この際だから言ってよ!本命は誰なの!?みんな…透さんを信じて歩いてきたよ?ねぇ!愛希たちはみんな…透さんがいるから頑張ってきたんだよ!愛希は誰よりも透さんが好きなの!!」  みんなが同じ気持ちだったのか、静かに透を見た。翔はセナの隣で泣きっぱなしだった。  「みんな、ごめん。俺、たぶん、初めて好きな人ができたんだ。俺は…長谷川さんが大事で、あの人が大好きな…このAltairをみんなに守ってほしい」  全員が透を見ると、見たことのない、優しい顔だった。  「頼んだぞ。」  そう言って笑う透に翔が立ち上がって掴みかかる。  「大事なら!大事なら自分で守れよ!!なぁ!?」  「俺がいればこのグループは無くなる」  「だから!どうにかしてっ」  「翔。ありがとう。お前に負担ばかり…ごめんな?最後のわがまま、聞いてくれないか?長谷川さんをよろしくな」  「そんなの!!自分で言えよ!!!!」  涙いっぱいに訴えるのに、つられて涙が溢れる。 「きっと!岡田さんが何とかしてくれる!心入れ替えてさ!また7人でがんばろうよ!ね!!みんなも泣いてないで出来ることしよう!」  晴天が精一杯の笑顔を見せて盛り上げ、みんながそれに乗ったように見えた。  「晴天、ありがとう。いいんだ。これ以上、みんなや、長谷川さんに迷惑はかけられない。」  収集つかないまま、その日を終えたが、ざわざわして眠れなかった。今後が怖くて、泣き腫らした目が痛くて7人と長谷川、岡田の笑顔の写真を見てはまた目の前がぼやけた。 

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