12 / 26
第12話
「長谷川さんの代理でAltairのサポートをします。篠原です。」
「長谷川の代理は篠原に一任する。岡田はブルーウェーブのマネージャーに専念してもらう。」
会議室には、社長と篠原がいた。
岡田はこの件には関わらせないと社長から聞き、全員が絶望した。
透は大人しく契約解除にサインをしてしまった。目の前が真っ暗になって、全てがどうでもよくなった。
会議室を出ると、岡田に頭を下げられた。
悔し涙がポタポタ落ちるのを、全員が同じ気持ちで岡田にハグをした。昨日の喧騒が嘘のように静まり返ったデスク。異様な空気感に吐き気さえした。
(長谷川さん…ごめんなさい。僕らはなにもできませんでした。)
合わす顔がなくて、長谷川に会うのが怖かった。
「長谷川さん、目を覚ましたんだって!」
「本当か!?…良かった…」
翔の声に晴天が安心して力が抜けるのを陽介が支えた。透は複雑そうな顔をしていたが、悔いはなさそうだった。
「明日には出勤するって…大丈夫かな」
「無理しないでほしいよな…」
「頼みの綱は長谷川さんだけだ。長谷川さんならきっと止めてくれる!」
みんなが願っていたが、出勤した長谷川は鉄仮面で、全く感情が無かった。
「決定事項に口出すことはありません。」
(あぁ。終わってしまった。)
呆気なかった。
地獄のような3日間は、一瞬で幕を下ろした。
長谷川は無理矢理笑顔を作って、卒業ライブに向けての打ち合わせをしたが、とてもじゃないが見ていられない。
(これが、7人の最後のライブ)
ヒカルは今まで抑えていたものを全て出すと決めた。
打ち合わせが終わって全員が立ち上がり、去っていく。ヒカルも愛希に声をかけて、帰ろうと誘うと、席を立たない愛希を不思議に思った。
「ヒカルにだけは…話したい」
「え?」
「透さんの…あの記事。愛希がバラしちゃった。」
「はぁ!!?」
「こんな…ことに…なるなんて…」
震える愛希に行き場のない感情をすべて向けてしまった。
「愛希!本当やり過ぎだよ!!退所まで…っ、」
「違うもん、愛希はセナさんにお仕置きしたくて…」
「あんなこと、わざわざ言う必要ないよ!なんで外に漏らすの!?バカなの!?」
「だって、グループのバランスを崩したのはセナさんだから、セナさんに責任を取って欲しかったの!こんなになるなんて思わなかったんだもん!」
「みんなまだ、本当は透さんのこと好きだったのに!愛希のせいでいなくなっちゃう!メンバーでいれるだけ幸せだって言ったじゃん!!変な彼氏にいいようにされて!どうせスクープがないとか言われたんでしょ!?」
愛希は彼氏にいいように使われていた。たまにこうして芸能界のリークをして、スクープを撮らせてあげたりするのだ。
「だって…困ってたから…」
「いくらで売ったの!?」
「20万…」
「たったの!?たったの20万で透さんがいなくなっちゃうんだよ!!?分かってるの!?」
思わず立ち上がった時、ドアが開いた。
見えた人物に血の気がひいた。
「愛希、歯ぁ食いしばれ」
「「え?」」
ドカン!!!
「愛希!!」
椅子と共に転がる愛希の胸ぐらを掴んで立たせて、恐ろしい顔で見ている。
鼻血が垂れる愛希は歯が鳴るほど怯えていた。
「愛希お前だったのか。やってくれたな?」
「長谷川さん!落ち着いてください!」
「覚悟してリークしたんだよな?」
「ひぃっ、っ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!!!」
「これは、お前のシナリオ通りなの?なぁ?教えてよ愛希。」
「違います、違います」
必死に弁解する愛希を突き放し、長谷川は頭を抱えた。必死に落ち着こうとしているのが分かった。
出て行くように言われて、愛希を引きずって会議室を出た。廊下に出て壁に凭れさせて愛希の手当てをしていると、中から泣き喚く声が聞こえて、思わず涙が溢れた。
「ヒカル…っ」
「バカだな、愛希は本当に…っ、」
「ヒカルは、ヒカルは愛希を捨てないでよ!」
「愛希が…自分で壊したんでしょ…?僕は、変わらずみんな、一緒で良かったのに…僕の、ここは、僕の居場所だったのに…」
「ヒカル…っ」
「ごめん、愛希…落ち着くまで、そっとしてほしい」
手当てを終えて、愛希を置いて先に帰った。どう声をかけたらいいのか、分からなかった。少しバカな愛希だけど、そこも可愛いと思っていたのに、今は全く思えなくて、この状態では愛希を傷つけそうだった。
「ヒカル?どうした?泣いてるのか?」
駐車場で透に会って、久しぶりに頭を撫でられた。想いが溢れて子どもみたいに泣いた。
「は、長谷川さん、が、」
「長谷川さんがどうかしたのか!?」
「行って、あげて、ください」
そう言うと、分かった、と凛々しい顔して走って行った。
(これでいいんだ。これで。)
甘えたかった、優しくされたかった、抱いて欲しかった、でも、これが正しい選択だと分かっている。
退院後の長谷川の鉄仮面が自然と自分にも被された。
ともだちにシェアしよう!