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第13話
7人最後。
そう思うと、喉が詰まりそうだった。
でも、最後はいいものを見せたい。
いい環境で、いい状態で終わらせたい。
愛希のカバーも、セナのカバーにも入った。
音響にコッソリ相談して、バレないように音を調整してもらうようにしてもらった。
翔よりも歌うパートを自ら増やして、透の声が気持ちよく聞こえるようにハモリに回ったりした。
ここまで真剣に向き合ったことは無いほど、集中して、初めての気持ち良さを感じた。
(楽しい、と思ったのが最後なんて笑える)
もうこの7人ではない。
6人…いや、もしかすると5人…。
ずっと顔面蒼白な愛希とも分かち合いたいのに、温度が違う気がして何も言えなかった。
大きな花束と、大きな拍手で見送られた透。
背中が見えなくなって泣崩れたマネージャー。これが、現実だった。
「ヒカル、お前音完璧だな」
「っ!タカさん…お疲れ様です。」
「翔よりも声がいい。」
「あー…音響さんがいじってくれたんですかね?そんなことないですよ」
「透のところのハモリはアレンジだろ?あれは良かった。」
「…最後だったので、やってみたかっただけです。」
嫌な人に見抜かれたと思った。
事務所関係者が見ているのは分かっていたが、ハッキリ言ってなめていた。
誰も気付かないだろうと。
(この天才は誤魔化せなかった。厄介だな…。この人は発掘してしまう。きっと、影の僕に光を当てようとする…)
「疲れたので…失礼します。」
逃げるように頭を下げて駐車場へ向かう。追っては来ないが今後が恐ろしく感じた。
バサバサ!!
「ヒカル!愛希のやつ、どーなってんだよ!!こんなに撮られてっ!これからって時に!!」
陽介に叩きつけられた週刊誌に目を見開いた。
(もう愛希は次の場所に行ってしまったんだ)
あのカミングアウトの日から、頭の整理がつかずに連絡をしなかった。そうしている間に、焦燥感から愛希は暴走しはじめた。どうせクビになるなら話題性を作って、との事だろう。
「ヒカル!愛希を止められないのかよ!?このままじゃ長谷川さん死んじまうぞ!」
「そんなこと言われても…っ」
「愛希の扱いなんかお前しかできないだろ?透さんだって扱いきれないって漏らしてたくらいだ。頼むよ!あいつを大人しくさせてくれ」
懇願されても、ヒカルにはどうしたらいいか分からなかった。愛希のカミングアウトを共有する訳にもいかないし、かと言って大人しくクビになるわけでもない。
「あいつは本当に自分のことばっかりだな。こんなにファンがダメージ受けてる時に!信じられないよ!」
陽介は透の代わりにリーダーを任される予定となり、カリカリしていた。愛希の評価が下がっていく中で、穏便に済ます方法が分からないまま、愛希は契約解除となった。
「いいか。これからは翔だけに背負わすAltairから、みんなで進むAltairになりたい。長谷川さんと、翔を俺たちが支えよう」
陽介の声に頷き、それぞれができることを始めた。立て直しに必死だった。
(もし、いいグループだと思ってもらえたら愛希も、戻りたいと言うかもしれない)
そんな妄想を原動力にして、できることを精一杯やった。
『おかけになった電話番号は、現在…』
(もう…切っちゃうよね)
人肌恋しくなって、愛希の番号にかけると、番号は変わってしまっていた。苦しい時に支えられなかった自分は、幼馴染失格だと責めた。定期的に気分が落ちる日に、いつもは愛希や透がいたが、今は誰もいない。
下手に夜の街を歩いて撮られるのも怖くて、部屋に引きこもる。
(誰かそばにいてほしい)
浮かぶ人が少なくて、でももう頼れなくて目の前が歪む。呼吸が荒くなっても、背中を摩ってくれる人はいない。
(誰か助けてほしい…誰か…)
苦しさのまま、ケータイを握りしめたまま眠った。
ヴーヴー ヴーヴー
手の中で震えたケータイに、目を覚ますと知らない番号だった。
(……?誰だろ)
深夜にかかってくるのが不思議で電話に出てみた。
「…はい」
『お前、誰?』
「はい?」
『愛希の何』
「えっ!?」
『この番号だけは消さないでって、どんなにボコってもうるせーんだけど』
(愛希!!)
『なぁ?ささっと言えよ!』
「あなたこそ、何なんですか。こんな夜遅くに非常識ですよ。」
『あぁ!?なんだてめぇ!?』
「あなたは愛希の何なんですか?ちなみに僕は愛希の番号は知りませんけど?」
『は?そうなのか?…俺はコイツの彼氏だよ。すぐ他の野郎に足開く馬鹿野郎だからな。こいつがキープにしてんのを全員消してるのさ。この感じだとお前はもう愛希に興味はなさそうだから許してやるわ!』
一方的に切れた電話に唖然とする。
(また変な人に捕まって…)
一応、と「愛希の彼氏さん」と登録して目を閉じる。
(愛希、ちゃんと幸せなの?)
届かない言葉を念じて、どうか笑顔で過ごしていますように、と願った。
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