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第15話

『元アイドルが男優デビュー』  思わずクリックすると、妖艶な笑顔の愛希だった。  (愛希、痩せてる…。ちゃんと食べてるの?)  画面にいる愛希は、可愛い笑顔で男を誘う。だんだんぼやけて、キーボードに涙が落ちた。  「愛希っ…どうして、こんなことに、なっちゃったのかな…っ」  事実上解雇された愛希。  透の過去をリークした罪。  初めは透を辞めさせる原因になった愛希を許せなかった。ヒカルにとっての居場所だったからだ。  (でも、僕らも、透さんも変わった。)  「みんな」でいることをやめて、選んで欲しかった。それは愛希も同じだった。ただ表現の仕方を間違えただけで、全部バラバラに散った。 激しく腰を振られている愛希が見ていられなくて、止めた。  (愛希は今、幸せなの?)  ヒカルは愛希がいなくなってから、ぽっかりと穴が空いたように、全てがつまらなくなった。いつも一緒にいた相方がいないだけで時々どうしようもない感情に襲われた。わがままで天真爛漫。自信やプライドは一丁前にあって、あまり無い実力をカバーするほどのキャラクターがあった。 (透さん、愛希を迎えてあげて)  無責任に他人に願うのが情けなくて、また目の前が潤む。  後悔しかなくて、日々の仕事が窮屈だった。ヒカルにとっては解散した方が楽だったと心から思った。愛希を留まらせることができなかったことをいつまでも悔やんでは、仮面を被って仕事をする日々。  (つまんない…)  プライベートも代わり映えなくて、誰かと出会うつもりもなく、家に引き籠った。もともとメンバーとも、愛希と透以外はあまり絡みはなかった。  (なのに!なんなの!?)  最近届く、日記みたいなメッセージに、イラついて既読をつけ、ケータイを投げる。  (僕に構わないでほしい)  歌も上手くて、顔も綺麗で高身長。  何も苦労しなそうな、シンガーソングライターのヤス。 僻みから第一印象は最悪だった。  暴言を吐き捨てて逃げたのに、次会う時は楽屋まで来て謝罪までされた。連絡先も渡したくなかったのに、押しに負けて教えたのが間違いだった。失礼の無いように、と挨拶だけ送ったメッセージの後に届いた、ヤスの曲。  自分を見ているのかというほど響いた曲に、晴天の胸で泣いたのが恥ずかしい。 『次は明るい曲にして下さい』 あの日の感情で返したメッセージに、機嫌を良くしたのか、ヤスは毎日メッセージをくれるのだ。  (あーやだやだ!早く飽きてほしい)  床に落ちたケータイを睨みつけ、ベッドに倒れ込んだ。  ヴーヴー ヴーヴー  「もう!!しつこいな!!」  大きな独り言を言ってケータイを乱暴に掴む。  「はい!!」  『お…、元気そうだな。』  「あれ?晴天さん?…どうしましたか?」  『いや…近くにいるからさ、飯とかどう?』  珍しいお誘いに首を傾げて、最寄りの駅で待ち合わせをした。 (相談ごとかな…)  疑問に思ったまま駅へ行くと、変装しているのにオーラがバレバレで周りがざわつき始めていた。  (やば!急がなきゃ)  「お疲れ様です!」  「よぉ!ヒカル…うわっ」  「走って!バレてるから!!」  後ろからキャー!と騒ぐ声が聞こえて舌打ちした。プライベートで会ったことがなくて、どうなるか想像がつかなかった。  近くの「休憩」とかかれた看板を見て、サッと路地を曲がって急いで店に入り、撒くことができた。  「はぁっ、はぁっ、はぁっ!晴天さん!!バカじゃないの、あんな、っ、目立つところ」  「ごめんごめん!俺、待ち合わせとか学生時代以来だから。」  そう言ってサングラスを外し、ニカっと笑う。  「で?なんでラブホ?」  「えっ!!?」  「あれ?分かってて入ったんじゃないの?」  「は?そんなのありえないし」  周りを見回すと確かにフロントだった。外を覗き込んでファンが追ってこないのを確認すると、誰も来ていないようだ。  「良かった…。とりあえずタクシー呼ぶね…」  ケータイを持って振り返ると、思わずケータイを落とす。  (え?!僕…今、キスしてる…?)  唇が離れて、固まっていると、髪をかき上げて苦笑いした晴天がいた。  「せめて、怒るなり焦るなりしてくれよ。無が1番きつい。」  「えっ?あっ…えっと…」  「脈なしなのは分かってたけどさ…。あまりにも興味なさすぎだろ。」  「だっ…て。そんなの…」  気まずくてケータイを拾う。タクシーを呼ぼうと操作する手を取られて、中に引っ張られる。  「ちょっと!晴天さん!」  「嫌でも見たくなるようにしてやる」  「はぁ?!なにそれ!放して!」  慣れたように操作して、部屋の鍵を取る。ヒカルは目を見開いて、激しく抵抗するも、筋肉バカの晴天にはビクともしなかった。  部屋に入れられて、ベッドに投げられる。慌てて立ち上がろうとすると、押し倒されて両手首を抑えられた。  「晴天さん!!」  「好きだ」  目の前の真剣な顔に思考が止まる。  「ヒカルが、好きなんだ。」  驚きすぎて声が出ない。ただただ目を見開いて見つめるだけだ。  「お前に、意識して、見てほしいんだ。」  「晴天…さん」  「乱暴な真似して悪かった。我慢…できなかった。」  そう言って拘束を解き、ベッドに腰掛けて頭を抱えている。  押し上げている熱に、本気だったんだと分かって嬉しくなった。  (こんなになるほど、僕のこと…?)  悩む晴天が可愛く見えて、雰囲気に飲まれる。自分の気持ちは分からないのに、久しぶりの人肌で火照った熱を発散したくなった。  「ヒカルっ!」  「僕…まだ気持ちは…分かんないけど…晴天さんには、触りたいなって思ったよ」  「っ!ずるいぞ…っこんなの!俺は、真剣にっ、お前のセフレになりたいわけじゃない!」  「晴天さん、寂しかったんだ…慰めてよ」  「バカヤロウ!」  噛み付くようなキスをされて、ゾクゾクと震える。好きだと何度も囁かれて満たされていく。  「っくぅ…っ!」  「え?」  ヒカルが触っただけで放った晴天は、顔を真っ赤にしてごめん、と俯いた。  (え…可愛い)  思わず笑顔になる自分がいて、その顔を見て、晴天はまた真っ赤になった。  (うそ…こんな…こんなに想ってくれる人いるんだ)  好きだと言うことが全身から伝わって、体の奥からぽかぽかしてくる。  (晴天さんなら…大切にしてくれそう)  ぎゅっと自分から抱きついて甘えてみる。筋肉がついたしっかりした腕が安心する。  「ヒカルっ…い、勢いで告ったし、こんな…っ、ああもう!!こんなはずじゃあっ」  「いいよ」  「はぁ…なんでいつもグダグダなんだ…」  「晴天さん、いいよ。晴天さんなら、きっと大事にしてくれるんでしょ?」  「え!?」  「僕…流されやすいから…浮気は…するかもしれないけど…晴天さんはアリだよ」  正直に話すと複雑そうな顔をしている。  「僕…たぶん、求められたら…ついて行っちゃうから…それは、許してほしい。それでもいいなら、いいよ。」  「うぅー…お前それは…意地悪だろ…独占したいのが男だろ?」  「だって…透さんと寝てた時から、1人だけ選ぶなんて無理だもん。選ばれないし」  「俺は選んでるだろ?」  「じゃあ…ごめんなさい…」  「ま、待ってくれ!じゃ、じゃあお試しで!な?」  「お試し…」  「3ヶ月だけは俺だけ見てほしい」  (こんな僕なんかに必死だなんて…正直嬉しい)  「分かった。よろしくお願いします」  そう言って頭を下げると、嬉しそうに抱きしめられて、恥ずかしくなる。  (初めてだ…こんなの…) この日は何もせず、晴天が風呂に入って、出てきたら食事をしに行った。話すことが面白くて、自分がこんなに笑うのか、と驚きもあった。  いちいち嬉しそうにしてくれる晴天に、心が癒され、だんだん開いていくのが分かった。  ヴーヴー ヴーヴー  (晴天さんかなっ?)  連絡を待っていた自分が恥ずかしくて、大きく深呼吸したあとにメッセージを開くと、恒例の日記と… 「…ライブに?…」  ライブへのお誘いだった。  どうしようと迷って、スケジュールを見るとたまたま空いている。  (晴天さんもいくかな?)  晴天もオフらしく、一緒に行くと返事をした。  デートの口実ができてフフッと笑う。  少しだけ、少しだけ幸せを感じた。 

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