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第16話
広い会場の関係者席に座って、ヤスのライブの開演を待つ。隣の晴天はやっぱりオーラが隠せなくて、ヤスのファンにも気付かれているようだった。
(ヤダな…見られたくない…)
一緒にいるところをなのか、晴天をなのか分からなくて、ただイライラした。照明が落とされると、大きな歓声が湧く。その時に左手を握られ、驚いて隣を見る。
(晴天さん…?)
「握ってていいか?」
「へっ?」
あまりの甘酸っぱさに顔が熱くなる。晴天も照れたように言って、聞いてきたくせに、放す気はないような力強さで、ヒカルの心臓は激しく脈を打った。
「それは…天然なの?計算?」
「え?どれ?」
「もういい。暗い時にはいいよ。」
天然でやってることが分かって力が抜けた。了承すると、鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌になった晴天に、ヒカルはもうどうしていいか分からないほど愛しさで溢れた。
ただ、あの歌声が全てを掻き消した。
ゾクゾクするほどの歌声と、優しい歌詞。
一度も音が狂わない、外さない。
会場を虜にするほど優しい眼差し。
手を握られているのを忘れるほど、息を呑んだ。
(こんなに…こんなに凄い人なのか)
悔しくて、感動して、あまりにも美しい音楽に心が震えた。
(こんな綺麗な音、ある?初めて聞いた)
これを知っていたのなら、どれだけ音楽に没頭しただろうか。あんなに嫌だったのに、英才教育で受けたたくさんの知識や感覚がどんどん研ぎ澄まされ、少しでも吸収しようと集中した。話しかけてくる晴天の声が雑音に聞こえるほど、夢中になって聞いた。
「ヒカル、ヒカルってば」
「え?」
「ふふっ、感動したんだね?終わったよ。ほら涙拭いて。楽屋挨拶いこ」
ハンカチを渡されて、急に現実に戻って何も考えられない。手を引かれるままぼんやりと歩き、余韻に浸る。
コンコン
「失礼しまーす!Altairの晴天とヒカルです!」
「わぁ!忙しいのに来てくれてありがとう!」
嬉しそうに振り返るヤスに、呼吸が止まりそうなほど緊張した。
(あの歌を歌う人)
「あれー?ヒカル君おとなしいね?どうしたの?」
「ヤスさんのライブで感動して放心状態です。」
「え?!嬉しいなぁ!」
クスクス笑う声が、くすぐったくて晴天の手をぎゅっと握る。
「ズルい」
「「え?」」
ポツリと出た恨み節は2人に届いてしまった。
「あんな優しい歌、歌うなんてズルい」
「…ははっ!ヒカル頑張ろうな!」
「ヒカル君が来ると分かってたから…落としにいこうかなって。」
晴天がえっ?と固まる。ヤスは朗らかな笑顔から妖艶な顔になった。
「男を誘って来たから脈なしかなぁ?って思ったけど…大丈夫そうだね」
ヤスの手が顔に触れる直前で、晴天が手を叩いた。
「ヒカルに触らないで下さい」
「おっと…ごめんね。此方への配慮はできていなかった…。君もヒカル君が好きなのかな」
「…ヤスさんは?」
「僕は、ヒカル君が欲しいと思ってるよ。もちろん好きだし、音楽の話をもっとしたい。ヒカル君の傷だって受け止めてあげられる。」
「傷…?」
「傷なんかありません。」
「あるよ。何度も何度も瘡蓋になってもかってに剥がれて血を流す傷が。もう慣れて、傷にも気付いていないのかな」
「知らないです。妄想で話さないでください。…歌は素晴らしかったです。あなたに追いつきたいと、今はそれしかないです。」
「そう…。なら待ってるよ。早く僕のところにおいで」
ヒカルは晴天の手を放し、ヤスにハグをした。心音が気持ちよくて目を閉じた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
身体を離して、ペコリと頭を下げ、晴天の手を取って楽屋を出た。会場を出ると、思い切り手を振り払われて驚いて晴天を見ると、怒りで顔が真っ赤になっていた。
(わかりやすいな…本当)
少し面倒に思った気持ちを隠して、黙って晴天を見る。
(何で僕なんだろう。そんなに怒るほど想ってくれて…。かっこよくて、素直で優しくてモテそうなのに。)
「ヒカル、ヤスさんが好きなのか?」
「好きじゃない。憧れは芽生えたけど」
「俺は?」
「憧れじゃないよ。好きに近いかな」
そう言うと強く抱きしめられる。
(晴天さんの音も落ち着く。)
「ごめん、今日は、抱かせて」
「……。」
「ウソだよ。ごめん。」
何も言わないヒカルに、晴天は泣きそうな声でそう言ってスタスタ歩いていく。
(可愛い、可愛い、可愛い)
ライブの余韻かもしれない。
けど、今はこの人に熱を覚ましてもらいたい。
「晴天さんっ!」
「…もう遅い。帰ろうか。明日は…」
晴天のマフラーを引っ張って屈ませて唇を奪った。すぐに舌を絡ませて、精一杯煽る。
「ひ、ヒカルっ、」
「晴天さん、今夜は、一緒にいたいな」
「っ!!」
「晴天さんといたい。」
夜でも分かるほど真っ赤になった晴天に、また可愛いと言う感情が抑えられない。
「晴天さんのお部屋に行ってもいい?」
喜びが溢れ出す晴天に笑って、手を握る。晴天は走り出しそうなほど早歩きでヒカルを引っ張り高級なマンションに着いた。
「晴天さ…ん、んっ、ふっ、ん」
自分の興奮具合も異常で触れるところ全てが気持ちよかった。大きくて熱くて柔らかい手が身体を撫でるだけで声が止まらない。
愛希と透しか知らなかったヒカルは、恐ろしいと感じるほどの快感に我を忘れそうだった。
「好きだ、っ、ヒカル、っ、好きだよ」
この言葉が媚薬みたいに、どんどんヒカルを快楽に落とす。恥ずかしいのに、頭を撫でてくれて、快感に落ちる自分の顔を愛おしそうに見つめて、しっかり手を握ってくれる。逞しい身体と、呼吸が難しいほどの衝撃。
「っぁああ!ッァアア!!!」
「は、ヒカル、イったの、?可愛い、よ。好きだ、ヒカル、もっと、気持ちよく、なって」
「ぃやぁあああ!も、もぉ!イッ…またぁっ!」
良いところに的確で、初めて身体を重ねたというのが嘘のように相性が良かった。今までで1番気持ちよくて、晴天にハマったのがわかった。
「ぅっ、痛ぁ…あ。」
寝返りが痛くて目を開けると、目の前に晴天がすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
(可愛い…)
野獣のような夜から、年よりも幼く見える寝顔にキスをした。
(幸せってこういうこと?)
しっかり回った腕と、もぞもぞと寄って来てはヒカルの胸にすりすりと頬を寄せ、また安心したように寝息を立てる。
(やば!!可愛い!!)
ヒカルは、少し反応した自身をどうしようと考える。毛布に触れるだけでたまらず、甘い息を吐く。
(どうしよう。寝てるそばでなんかできない。)
せめて見られないようにと、寝返りを打ち、背を向ける。
(はぁ…出せば終わるから…っ)
グチグチと音が鳴るのが恥ずかしくて、力任せに扱いていると、後ろから手が伸びた。
「ああっ!」
「ダメだろ、そんな握っちゃ。こうして、優しく」
「あっあっ、んぅ、っああ」
「そうそう、上手上手。ほら、さきっぽも」
「ンッ!っぁああ!っぁああ!」
「あ、こっちが好き?」
「やっ、や、っ、見ないで、っぁあ」
「見るでしょ。好きな人が気持ち良さそうなのに。」
「はっ、あっ、あっ、あっ」
「出していいよ」
「ンッーーッ!っぁあああー!」
晴天の手のひらにぶちまけて瞼が落ちていく。クスクス笑う声を聞きながら睡魔に身を任せた。
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