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第18話
「ン…痛たたた…」
腰の痛みで目を覚まして、ぼんやりと天井を見る。
(ここは…?)
隣にはグーグーと幸せそうに眠る晴天。
ドキドキして、ソワソワする。
(好きだな…)
晴天の温かさに心が晴れていく気がする。身体を起こすと、ベッドサイドにラッピングされた箱と、カードがあった。
『ヒカルへ
誕生日おめでとう!来年はどこか行こう!
晴天より』
晴天らしい、筆圧の強い大きな文字に、目の前がぼやける。毎日幸せと感じるのがやっぱり怖いと思った。
リボンを解いて、静かに包装紙を剥す。
「わぁ…カッコイイ時計…」
腕にしてみると、なかなか似合う気がして嬉しくなった。腕時計を持っていなかったヒカルは、晴天が抱く時に時計を外す姿にドキドキしていた。
「誕生日プレゼントだなんて…しばらく貰ったことないよ」
ファンからしか貰えなくて、メンバーでさえも関心がなかったというのに。晴天は覚えててくれたのか、調べたのか、どちらにせよヒカルにヒットした。
嬉しくて、写真を撮ろうとケータイを取ると、未登録の番号からメッセージが来ていた。
『ヒカル、誕生日おめでとう。元気なの?本当は会いたいよ。許してほしい。』
(愛希!?)
急いで電話をかけると、長いコールの後、聞き慣れた声が聞こえた。
『ヒカルっ…っ、ヒカル、』
「愛希、愛希だよね?」
『電話、してくれるなんて、思わなくて、でも、愛希、ヒカルに、会いたくてっ』
「今どこなの!?すぐ行くから!」
『分かんないっ、も、嫌だ、っ、っ、もう、嫌だ』
号泣している愛希に、居ても立っても居られなくて、急いで服を着ると、晴天がゆっくりと目を覚ました。
「ヒカル?」
「ごめん、晴天さん!愛希を迎えてくる!」
電話を繋いだままそういうと、晴天が手首を掴み、ベッドに押し倒した。その拍子にケータイが落ちて、通話が切れてないか焦る。
「何っ、放して!愛希が、」
「行くな」
「…へ…?」
「愛希は、俺たちを捨てたんだ。わかるだろ?関わるな。」
「っ!…それは、事情が…」
「俺たちを変えたのは愛希だ。今更ヒカルを頼るなんて俺が許さない」
意志の強い目に怯む。心配でたまらなくて、でも振り解けなくて涙が溢れる。
「俺といるなら、必ずヒカルに幸せにする。必ずだ。だが、愛希はどうだ?自分の都合で振り回して、お前のそばにいたか?」
「いてくれた時もある!だから」
「昨日話してくれた内容だと、愛希は透といたんだよな?お前の誕生日に」
「やめてよ!!晴天さん、お願い、今行かないと、後悔するから!」
「嫌だ。今行かせたら、俺が後悔する!」
平行線のまま無言になる。晴天が手を離し、ヒカルのケータイを掴んだ。
「愛希、今更なんだ」
『晴天さん…』
「ヒカルはもうお前のものじゃない。俺のだ。会いたいなら俺も行く。」
『分かった…分かったから、ヒカルに会わせて。』
場所を晴天が聞き出して、愛希のところへ向かう準備をする。
「あ…あの晴天さん、プレゼント、ありがとう」
「あぁ。」
冷たい声音に悲しみに襲われる。それに気付いたのか、慌てて明るくする晴天。
「ごめん…。ヒカルを取られたくないんだ。ガキでごめん。1人で行かせてやれなくてごめん。信用してないわけじゃないんだ。ただ、お前と愛希はセットだから…俺が勝てるわけないんだ。」
曇り空みたいな目にさせたのは、間違いなく自分だと反省した。背伸びしてキスをして、目を見つめる。
「そんなことない。今の僕には、晴天さんでいっぱいだよ。ほらこの時計も、このカードも全部全部宝物だよ。」
「ヒカル…」
「さっそく、ワガママ聞いてくれてありがとう。流されちゃうかもしれなかったから、一緒だと嬉しい。心強い。」
そう言うと、晴天は嬉しそうに笑って抱きしめてくれた。
(ここが、僕の居場所。失っちゃいけない)
2人は無言でタクシーに乗り、愛希の元に向かった。
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