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第19話
薄暗い雑居ビル。
その路地にある古いアパート。
その前に立って2人は首を傾げた。
「確かにここだって…」
晴天はケータイのナビを見ていた。すると、何名かの男がゾロゾロと集まってきた。
「…何か用ですか?」
「こっちのセリフだ。綺麗な兄ちゃんたち。誰に聞いてここへ?」
「…道を間違えたみたいです。すみません。」
素直に晴天が頭を下げ、ヒカルの手を引いて通り過ぎようとした時、遠くから声がした。
「晴天さん、待って…今、声が…」
「ダメだ。ここはヤバい。行くぞ」
「ヒカル!!晴天さん!!」
ハッキリと聞こえた声に晴天の足も止まった。ゆっくり振り返ると、ガリガリで、あのキラキラした愛希の面影は無かった。
「助けてよ!待って!行かないで!」
「お前か!やっぱり使えねぇな!」
「うっ!!やめ、っ、やめてっ!!」
数名にいきなり袋叩きにされる愛希に足が向いたところで、先に晴天が動いた。
「ヒカル!警察を呼べ!」
「はい!」
震える手で通報して、その間晴天は愛希を庇って何度も殴られていた。見ていることしか出来なくて、涙が溢れた。
(誕生日なのに)
そんな場違いな感情がよぎったまま立ち尽くした。
警察が来る頃には晴天でさえもグッタリしていて怖かった。愛希はとっくに意識を失っていた。
「も、もしもし、っ、は、長谷川さん、」
『はい、どうしたヒカル』
「はっ、はっ、は、は、長谷川、さん、っ」
『!?どうした!?』
「あの、っ、あの、っ、」
『大丈夫だ、落ち着け。』
「愛希を庇って、晴天さんが、っ、いま、病院に向かってて、その、僕、なにも、出来なくて」
救急車でグッタリとしている晴天が怖くて、嗚咽で話せなくなった。
「ヒカルー!大丈夫だってー!ほら、顔はちゃんと守ったし!」
病院で目を覚ました晴天は、泣きじゃくるヒカルの頭を撫でてニカッと笑った。長谷川からは頭を叩かれていたが、安心したように笑っていた。
服で隠れるところは青あざや鬱血をしていて痛々しい姿だった。この事件は長谷川が揉み消しに成功し、騒ぎにはならなかった。
「ヒカル、愛希は?」
「…それが…」
「ヒカル、もう愛希とは関わるな。関わったから晴天まで怪我をした。あいつは自分でソッチに行ったんだ。仕方ないさ。」
長谷川はあくまでも他人行儀だった。しかし、愛希の入院費や医療費は長谷川が全額出していたのもヒカルは見ていた。
「まだ契約が残っているが、耐えられないんだと。話にならない。」
「契約解除ってできないのかな」
「違約金は1000万らしいぞ。とんでもないな。」
長谷川は大きなため息を吐いた。
「どの面下げて戻りたいなんか言ってんだよ。あんな…痩せこけて…青白い顔して、嘘でも今がいいって言って欲しかった」
長谷川の言葉にヒカルも頷いた。
愛希の腕にあったたくさんの注射痕。透に媚薬を飲まされそうになった時でも心底怯えていたのを思い出す。
「本当お騒がせだな…あいつは」
心配そうに立ち上がり、様子を見に行った。
「やっぱり、長谷川さんすげぇな」
「うん。透さんが惚れるのも分かるね」
そう言って、ヒカルは晴天の手を取って自分の頬に当てた。
「良かった。晴天さんが目を覚まして。怖かった」
「ごめんな。弱いとこみせた」
「そんなことない。かっこよかった。やり返さなかったのは強い人だよ。愛希も僕も守ってくれた。晴天さんは強い人なんだよ」
「ヒカル…」
「僕の自慢の彼氏だよ」
安心するようにと笑うと、晴天は反対の腕で顔を隠し、唇を噛んだ。
「っ、っ、」
「晴天さん、」
「っ、っ、」
珍しく涙を零すこの人を、今度は守りたいと思った。自分のわがままで危険な目に遭わせてしまったのに、責めるどころか、こうして自分自身を責めている。
「晴天さん」
「っ、っ」
強く噛み締める唇に、そっと口付ける。驚いて少し緩めたところで舌を絡める。
「っ、はぁ、っ、ヒカルっ」
「ん、っ、止まんないっ、晴天さん、」
「はっ、ヒカルっ、」
「シたい…っ、晴天さん、」
コンコン
「おーい。どこだと思ってんの。」
「「っ!」」
「お前らいつからそんな関係に?意外すぎるんだけど」
長谷川は微笑んでパイプ椅子に腰掛けた。
「俺から告りました。まだお試し期間ですけど」
「えっ!?」
「え?違うのか?」
自分で言ったことを忘れていたヒカルは、お試しと言われたことにショックを受けた。
「僕、もうお試しの感覚じゃなかったのに」
少し落ち込むと、晴天はキラキラとこちらを見てはニヤニヤし始めた。
「何、その顔」
「ん〜?なんでもないよ〜。ヒカル、俺は初めから本気だからな?」
「分かってるよ…」
「んふふ」
晴天は耐えられないのか笑い初めて、長谷川は惚気た空気に苦笑いしていた。
くすぐったくて、モゾモゾする。
晴天に触りたくて、じっと見つめるとウインクされて顔が熱くなった。
「愛希はヒカルの家にいることを希望しているが、晴天が嫌だろ?」
「絶対ダメ!」
「ははっ!絶対なのな。じゃあ引取先さがしましょうかね…」
長谷川は伸びをして立ち上がった。
「あ、長谷川さん?受け入れてくれそうな人がいるんだけど…」
「お?本当か?」
「うん。」
そう言ってヒカルは連絡先を開いた。
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