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第23話

仕事がこんなにありがたいなんて、初めて思った。何かをしていれば気が紛れる。 「翔さん、ヒカルさん、スタンバイお願いします。」  翔が元気よく返事をして、それに続く。カメラがあればスイッチが入る。ライトを当てられることにも慣れてきた。  「……!?ヒカルさん?」  カメラマンが手を止めた。どうしたのかと思うと、冷や汗が止まらない。  「休憩入れましょうか?」  急いでメイクさんが汗を拭きに来たが、隣の翔は長谷川を呼んだ。  「ヒカル、大丈夫か?」  「大丈夫ですよ、みんな…どうしたんですか?」  「顔色が悪いぞ」  「メイクが合わないのかな…すみません…」  メイクさんを呼ぼうとすると、急に体が浮いた。  「晴天さん…」  「休憩入りまーす!」  背中に乗せられて、運ばれてしまった。  (元気なのにな…)  ベンチに降ろされると、サンドイッチを渡される。  「食べて。食べないなら今日は休め」  「…いらないよ」  「じゃ、監督に…」  立ち上がった晴天の腕を引いて止めた。見下ろす目には怒りが見えて、ヒィッと息を呑んだ。  「仕事、舐めてんのか?」  「いえ…」  「こんな顔色がベストなのか?何も食わないでどうする?そんなお前に何ができる」  「っ!」  透を取り合っていた頃の晴天に見えて、恐怖を感じた。  「晴天、言い過ぎ」  「間違ったことは言ってない」  「分かってるよね、ヒカルだって。」  陽介が間に入ってくれた。どちらかが熱くなりすぎると、どちらかが冷静に諭してくれる。  「…サンドイッチは、食べられないから…スープが飲みたい」  小さな声でそう言うと、晴天は一瞬でスープを調達しに走った。  「あっははは!晴天ってば過保護なんだから!」  陽介は涙が出るほど笑って、ヒカルをブランケットで包んだ。  「ヒカルー?どしたー?」  「…心配ごとがあって…。すみません、プロ失格です…」  「いいんじゃないの?そんな日もあるさ。いきなり色々任せちゃってるから…ごめんな?」  ニカッと笑う顔が温かくてつられて笑う。  「ヒカル、ほら、翔見てごらん?」  陽介が指差す方向を見ると、セナと翔がキャッキャと楽しそうだ。  「ヒカルのお陰で、翔がリラックスできてるんだよ。荷が降りたって喜んでたよ。」  周りが見えないのかと言うほどイチャついては爆笑し合っている二人が可愛い。  「あーあ。俺だけひとりぼっちじゃんかよ」  「え?」  「晴天とデキてんだよな?」  「…うん。僕を支えてくれたんだ」  「良かったな。正直、愛希が抜けてボロボロのお前にどう接していいか分からなかった。」  苦笑いすると、また陽介は前を向いた。  「良かった。お前ら全員幸せで。」  「陽介さん…」  「俺はさ、透を越える人がいるのか、想像つかねぇよ。笑えるだろ?」  割り切ったように笑って、スープをこぼしながら走ってくる晴天を見つけて、指をさして爆笑しはじめた。  「あっつーー!!はい!ヒカル!」  「うぇ!?少なっ!あっははは!」  「うるさいよ!走ったから仕方ないだろ?」  「晴天さん、そんな急がなくてよかったのに…ふふっ、ありがとう」  溢れて半分になったコーンスープを飲むと落ち着いた。少し口にすると、食欲が湧いた。  「…やっぱり、サンドイッチも食べて良い?」  「あは!もちろんだ!」  嬉しそうにたくさんのサンドイッチを持ってきた晴天に、また陽介とヒカルは大笑いした。  ヤス:今日の愛希は、少し様子がおかしいんだ。僕にくっついて離れない。  ヒカル:もしヤスさんがいいなら、そのままにしてあげてください。元々、生粋の甘えん坊なので。  ヤス:分かった。僕の膝で眠っちゃった。寝顔は可愛いよね。  ヒカル:寝顔以外も可愛いですよ。  ヤス:ヒカル君の寝顔も見たいな。  うっ、と返信が止まる。どうしようと迷っていると、またヤスからメッセージが来た。  ヤス:意識してくれた?それなら満足。おやすみ。  ケータイを投げて項垂れる。きっと、晴天はこのやり取りも嫌なはずだ。でも、ヒカルのために見逃してくれている。  (はっきり言わないとだよね。でも、愛希…)  ベッドでゴロゴロと悩んでいると、盛大にお腹が鳴った。  「ふはっ!気が抜けるな…」  自分で吹き出して、晴天にメッセージを送る。  「晴天さん、こんな夜遅くにごめんなさい。お腹すいちゃった」  「本当か!なら食べに行こう!」  「ありがとうございます!バイクで迎えにいきますね」  連絡をして、久しぶりにもう一つのヘルメットを持った。  (愛希専用になってたな…)  懐かしい日々を思い出して微笑む。  (好きな人用、ってことにしよ)  よし、と夜風に当たりながら、好きな人を迎えた。 

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