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Hakoniwa 26

 翌日の土曜日は宮部がベッドから動けず、日曜日にはなんとか体力も回復し、ふたりで買い物がてら散歩に出かけた。宮部が好きだというパン屋でいくつかパンを購入し、隅田川沿いに広がる大きな公園まで歩いた。  歩きながら、宮部はよく喋った。両親が事故で亡くなった事、その後長野の祖母の家で小学五年から大学三年まで過ごした事、奨学金の返済があるので極力節約をしている事。  宮部の話を聞きながら、三上は時々相槌を打った。そして時々、宮部の顔をちらりと横目で覗き見た。宮部は終始、楽しそうに笑っている。つられて三上も頬を緩め、気付いては顔を引き締め直した。  マンションまで戻ってきた頃には日は傾きかけ、真赤な夕焼けが広がり始めていた。マンション入口へ向かおうとした三上を、宮部が呼び止める。 「そういえばこの間、マンションの裏手で公園を見つけたんです」  三上に公園の記憶はない。いつの間に出来たんだろうか。  宮部に誘導されながらマンションの裏手へ回ると、確かに小さな児童公園が出来ていた。敷地は小さいながらも、桜の木が数本植えられている。 「春になったら、桜が咲きますね」  宮部は大きな瞳で、花を咲かすにはまだ早い桜の木を見上げた。満開に咲いた桜を想像しているのだろうか、小さな子供のように瞳を輝かせている。  三上も桜の木を見上げ、まだ見ぬ満開の桜を想像し、それを宮部と二人で見上げている姿を想像した。春になっても、宮部と自分はこんなふうに肩を並べているだろうか。 「花見が出来るな」  三上が答えると宮部は三上の横顔を見上げ、そうですねと微笑んだ。  それからふたりでベンチに腰掛け、宮部は袋からパンを取り出した。宮部が好きだと言うメロンパン。  自ら菓子パンを買って食べようと思った事は殆どないが、宮部が半分にちぎってくれたメロンパンは素直に受取った。一口かじる。甘い。果てしなく甘い。 「甘いな」  三上が呟くと、宮部は、メロンパンですからと答えた。

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