30 / 110

Hakoniwa 30

「一杯飲んだらすぐに帰れよ、もうすぐ居候が帰ってくる」  居候、という言葉に反応したのか、柚が切れ長の目を三上へ向けた。 「なに居候って。恋人じゃないの」 「職場の後輩」  キッチンへ周り電気ケトルに水を入れる。ドリップ珈琲を袋から取り出しマグカップにセットしたところで、背後からぎゅうと抱きしめられた。背中から人肌の熱が伝わってくる。 「こら、柚」  胸にまわされた腕を振りほどこうと振り返ると、会いたかったと囁かれた。 「他に男が出来たといって、俺を捨てたのはお前だろう」 「捨てたなんて、まるで俺が全部悪いみたいな言い方」  柚は拗ねたように答え、俺は寂しかったんだよと呟いた。 「行くなって泣いてすがってくれるかと思ったら、秒でわかったってあっさり引き下がられて、もうあの時はショック過ぎてほんとに数日泣き暮らしたんだからね」  柚に脇腹をぎゅうとつねられて、痛ぇと声を上げた。本当に痛い。 「寂しくさせたなら悪かった。でも全部今更だ。今の恋人と仲良くやってくれ」 「もうほんと、泰生のそういうとこ」 「なんだよ」 「そういうとこがたまらなく好きなんだよ。ほんとずるい男だよね、腹立つなあ」  電気ケトルが沸き、カチリとスイッチが切れた。その音に気を取られた瞬間、柚の両手が三上の頬を捉え、向き合った瞬間に唇が重なった。柚の舌先が器用に三上の口内へと滑り込む。柚のペースに引き込まれかけ、三上は慌てて唇を引き離した。それでも柚はひるむ様子もなく、長い両腕を三上の腰へと回し、身体を摺り寄せてきた。 「ねえ、久々にしようよ」  柚の申し出にぎょっとする。 「恋人がいるくせに、よくそんな事が言えるな」 「いまの彼は優しくて素敵なんだけどねー、エッチもソフトすぎてさ、いやそれもいいんだけどね。泰生のガツガツしたセックスが恋しくなっちゃった」  笑って言うな。  柚は左手の指先で三上のネクタイを緩め、右手で器用にシャツのボタンを外していく。シャツがはだけ、現れた三上の鎖骨に唇を寄せた。音を立てて鎖骨から胸へキスを落とし、胸の尖りに吸い付くと、わざとらしくちゅうと音をたてた。 「柚、やめろ」  痛い程に吸い付かれ、三上の身体に痺れが走る。 「嫌がるフリしても駄目、泰生が喜ぶところは全部わかってるよ? 俺が一から大事に育て上げたんだから」  両乳首を交互に遊ばれ、快感を堪えているうちに、気付けばベルトを外されていた。 「ふふ、身体は正直。もう大きくなっちゃった、泰生ったらやらし~」 「お、お前な……」  柚は慣れた手つきで三上のパンツから緩く立ち上がった屹立を引き出し、右手で器用にこね始めた。これ欲しいなあ、ねぇちょーだい、と含み笑いで三上を見つめる。 「泰生のおっきくて硬いこれで俺の腹の中、めちゃくちゃに突き上げて欲しいなあ。ぐちゃぐちゃにかき混ぜてよ、馬鹿みたいに喘ぎたい、ねえ、しよ? 泰生」 「ふっ、う……」  気持ちが流され始めた時、玄関からガチャリと鍵の外れる音が聞こえた。パタパタと歩く音がこちらへ向かってくる。 「三上さん、お疲れ様です、僕、うっかりスマホを会社に……」  リビングの扉が開き、入ってきた宮部と目があった。

ともだちにシェアしよう!