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Hakoniwa 31

 大きな目を更に大きく見開き、口をぽかんと開けたまま、閉じる事を忘れている。位置的に宮部からこちら側の下部の様子は見えていないはずだと、三上は対面キッチンの間取りに感謝した。けれど、はだけたシャツは隠しようがない。  柚は右手で三上の屹立を握ったまま、あれぇ、と声をあげた。 「あらら、泰生の後輩さん? ご奉仕中のとこ見られちゃったね~~泰生」 「柚、お前はもう喋るな、手をどけろ」  三上は柚の身体を乱暴に引き剥がし、シャツを整えながら宮部に向かってこれは違うと声をあげた。  違う。何が? 自分は何の言い訳をしようとしている。 「知り合いが来ると連絡は入れておいたが、こいつは」  三上が話し始めると、固まっていた宮部がハッと意識を戻したように慌て始めた。 「あ、あっ、すみません! スマホ、会社に忘れてきちゃって……ぼ、僕、出かけてきますんで、どうぞごゆっくり」  宮部は上ずった声で言い切ると、逃げるように踵を返した。玄関の扉が閉まる音が響いた瞬間、ズキンと心臓に痛みが走った。  宮部は泣きそうな顔をしていた。自分は宮部を傷つけたのか。 「泰生、ごめんね、あの子もしかして、泰生がゲイだって知らなかった?」  柚は小首を傾げ、特に悪びれもない表情で三上を見つめた。 「問題はそこじゃない。柚はもう帰ってくれ」  えー、と不満げにふてくされた表情を浮かべる柚の背中を押し、玄関まで連れて行く。 「まさか泰生、あのちっちゃい子の事好きなの? 見た目冴えないっていうか乳臭い感じが可愛いっちゃ可愛いけど。趣味変わった?」 「そんなんじゃない、宮部は……」  宮部は、期間限定条件付のペットだ。素直で、真面目で、一生懸命で、料理上手で、しっかり者で、いじらしくて、可愛くて……。 「泰生?」  柚に顔を覗き込まれ、ハッと我に返る。遊びが過ぎちゃってごめんねと微笑む柚を見て、こいつは昔からこういう奴だとため息をついた。周りのペースも空気も、あっという間に自分の流れへと持って行く。  今の彼氏と仲良くやれよと柚の頭を撫で、玄関から送り出した。

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