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Hakoniwa 32

 リビングへ戻り、ソファへ倒れこむ。宮部はちゃんと帰ってくるだろうか。あいつには帰る家がない。ここしかない……はずだ。  静まりかえった室内でぼんやりと天井を見上げながら、先程までの柚との会話を思い返す。 『なあんだ、半年前と何も変わってないね』  リビング、キッチン。テーブル周り。  目に見える辺りをぐるりと見回し、確かに何も変わっていないなとひとりごちる。  宮部と同居をはじめてひと月が過ぎたけれど、十年近く一緒に暮らしていた柚が気づかない程、この部屋は何も変わっていない。  変化が、まったくない。 (変わらないように、していたのか)  宮部はここに居る間、おそらく常に、意識して生活をしていたのかもしれない。  何か触れても必ずもとの位置に戻す。この家の住人でない自分の存在を表に出さないように、三上の空間を壊さないように、迷惑がかからないように。  宮部は自分がいつここを出ても問題ないように、常に準備をしている。冷静に考えればそれは至極当然で、おかしなところはなにもない。  心臓がドクンと音をたて、三上はそれを抑えるように胸に手をあてた。  宮部が突然姿を消したらと想像しただけで、胸に痛みが走った。  ダイニングテーブルへ置いたままにしていたスマートフォンを手に取り宮部の番号をかけたが、会社に忘れてきたと言っていた事を思い出し電話を切った。会社へ取りに戻ったのだろうか、それとも。  その時、リビングの床の上に置き去りにされた宮部の鞄が目に入った。 「あいつ、何も持たずに飛び出したのか」  三上はコートを羽織り、真冬の夜へと飛び出した。 (宮部が行きそうな場所……どこだ)  駅前のカフェだろうか、コンビニか、でももしかしたら財布も持たずに出て行ったのかもしれない。こんな寒空の下のどこにいるのか。  ひとりで佇む宮部を想像し、胸の痛みはズキズキと増すばかりで止まらない。早く、早くみつけて家に連れて帰らなければ。  エレベーターを降りマンションを出たところで、裏手にある児童公園を思い出した。ふたりでベンチに座り、夕焼けが消えるまで空を眺めた。幸せそうな表情でパンを頬張っていた宮部の横顔を思い出す。

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