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未来は幸せに満ち溢れている 2

(誕生日だなんて、知らなかった!)  知っていたなら前日から仕込んでご馳走を用意したのに。あああもう時間がない。プレゼントも何も用意出来ない。  エレベーターの中で頭を抱えながらブツブツと呻く宮部を、同乗者は遠巻きに眺めている。 (はっ、そうだ、この際外食にしたら良いのでは)  本木主任が言ってたように、日頃のお礼もかねて食事をご馳走するのはどうだろうか。  うんそれが良いとひとりごち、慌てて三上へラインを送る。 『今夜は外で食事をしませんか?』  すると直ぐに既読になり、返信がきた。 『家がいい』 (うっ!)  三上さんが家ご飯を望むのなら家で食事をするしかない。でも何を作ったら良いだろう。時間もないし、短時間でも美味しく豪華にみえる料理……三上さんが喜びそうな料理。  ぐるぐると考えながら混雑する駅構内を足早に歩く。小さな身体で人の波を縫うように進んでいると、前方から歩いてきた人とぶつかってしまった。危ないという声とともに腕を掴まれ、あやうくの転倒を免れる。 「す、すみません、ありがとうございます」  謝罪とともに顔を上げた瞬間、あっと声をあげてしまった。見覚えのある、綺麗な男の人。相手は少々驚いた様子で宮部の顔をまじまじと見下ろし、それから思い出したようにああと頷いた。 「泰生んとこの居候くんだ」 (三上さんの、昔の恋人さん……)  三上さんに「ユズ」と呼ばれていた。ユズさん。たった一度目にしただけで記憶から消えない程、綺麗な人。  ふわふわと柔らかそうな茶色の髪に、同じく色素の薄い茶色の瞳。白肌は汚れのない陶器のようだ。高身長で線の細い身体のラインは一切無駄のない美しさ。グレーのスプリングコートに白シャツとジーンズというナチュラルな服装でもまるでモデルのような洗練さを感じる。  一言で言えば、チビで全体的に地味黒な自分とは正反対の容姿なのだ。あまりの神々しさに一瞬目がくらんでしまった。

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