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未来は幸せに満ち溢れている 3

「ずいぶん急いでいるようだけど、危ないからちゃんと前見てゆっくり歩こうね」  天使のような笑顔を向けられ、優しく頭を撫でられた。子供扱いをされたようで、宮部はぐっと口元を引き締める。この数秒間で凄まじい劣等感に打ちのめされかけたけれど、三上さんの現恋人は自分なのだ。ひるむ必要なんてない。 「……気をつけます、それじゃ」 「あ、そっかあ、今日は泰生の誕生日だもんねー。これから帰ってご飯の支度? 泰生の事だから、外食より家ご飯がいいとか言ったんじゃない?」  ずばりと言い当てられて思わず足が止まる。付き合っていたのだから誕生日を知っているのはわかるけれど、自分は泰生の事を知り尽くしていると言わんばかりの口ぶりに、じわりと悔しさが込み上げる。 「……そうなんです、これから帰ってご飯を作ろうと思っているんです、三上さんの為に」  今夜三上さんと過ごすのは自分なのだと、暗に言いたかった。  そんな宮部の心を知ってか知らずか、柚は更に口を開く。 「ふふ、メニュー当ててみよっかな。ハンバーグリクエストされたんじゃない? 泰生、子供の頃から誕生日はハンバーグで育ってきたもんだから、大人になっても誕生日はハンバーグってあたまなの、可愛いよね~。俺も何度も作ったもん」  目の前の美人さんは、笑顔で超ド級の爆弾を投下してくる。  そんな話題はした事ないので全く知りません。誕生日も今日、本人でない他人から聞いて知りました。そうですか、ハンバーグですか。何度も作ったと。それだけ何度も誕生日を祝ったと。そういうことですか。  心の中は荒ぶりながらも、宮部は丁寧にお辞儀をした。 「……貴重な情報をありがとうございます、それじゃ」 「あれ、知らなかった? じゃあもひとつ情報、ケーキを買うならチーズケーキが良いよ~、甘さ控えめの選んであげてね」  楽しい夜を過ごしてねと笑顔で手を振られ、宮部は敗北感で押し潰されそうな気持ちをこらえながらその場をあとにした。

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