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花見酒 3
夜の公園はしんと静まりかえっている。音を響かせないように静かに歩き、桜の木の下までくると、宮部は小声で見てください、と指をさした。
外灯の明かりの下で、夜空に白く浮かぶ桜の姿は幻想的だ。
五分咲き、といったところだろうか。日蔭の位置にあるせいか、少し開花が遅いのかもしれない。
満開とまではいかないが、隣の宮部が嬉しそうに見上げているのでよしとした。
二人でベンチに腰掛けると、宮部がごそごそと鞄を漁り始めた。その様子を黙って眺めていると、小さなステンレスボトルをとりだし、更には小さな御猪口まででてきた。
猪口を手渡され、宮部がステンレスボトルを開くと、ふわりと甘い酒の香りがひろがる。
「……熱燗つくって待ってたのか?」
「外、まだ寒いしと思って」
はいどうぞと注がれ、どうもと受取る。
「宮部の分は?」
「僕は熱燗なんて飲んだら倒れますので」
真赤になった宮部を想像したところでクッと笑いがもれてしまい、堰をしてごまかした。
「あったかくなるからほんの少しだけ飲んでみろ。甘いし」
三上の申し出に観念した宮部は猪口を受取ると、舐める程度に口をつけた。
「ほんとだ、甘い」
頬を緩めた表情に満足し、三上も猪口に口をつけ、ごくりと一口飲み込んだ。
酒の甘い香りと熱が、疲れた身体に染みわたる。
桜を見上げながらゆっくりと飲み干して、はあと息を吐いた。
「疲れがとれるな……」
宮部と居ると、疲れがとれる。
右隣から、よかったと小さな声が聞こえた。
三上は空を見上げたまま右手で宮部の左手を探す。気付いた宮部が手のひらを重ねてくれたので、柔らかく握り締めた。包み込めるほどに小さい手だなと思いながら、感触を確かめるように、何度も握りしめる。そのうち隣からふふっと小さな笑い声が聞こえた。
五分咲きの桜を見上げながら、満開の時期にまた花見をしようと心に誓う。
次はちゃんと、自分が宮部を連れてこよう。
忙しさを理由に、大事なものを取りこぼさないようにしよう。
右隣へ視線をむけると、宮部もまた夜桜を見上げていた。
視線に気付きこちらを向いてくれた宮部は鼻先と頬を紅く染めていて、改めて可愛いなと思い知る。
唇に触れるだけのキスをしてから、そうだ言葉にしないといけないんだったなと思い出し、耳元で好きだと囁いた。
おわり
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